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溶けるような心地よさの中、何度も口付けを交わし、肌が冷えてきた頃、拓海に抱きかかえられ風呂場に向かった
身体を洗いたいと言う拓海の要望にも恥ずかしながらもこくりと頷き、隅々まで労るように洗い流される
またドキドキと心拍が上がっていくのが分かったが、必死に堪えて、そのまま一緒に浴槽に浸かった
「……ハァ、まじで夢みてえ」
東の足の間に体育座りをするように背中をもたれる姿勢で、後ろからまた強く抱きしめられる
首筋にキスをされ、そのまま強くヂュウと吸われ跡を残す
大事に大事に何度も名を呼び、優しく頭にキスを落とし、指を絡め取られる
「幸せってこんな感じなんだな」
「何言ってんだよ。こんなモンじゃないし、もっともっと幸せにするから」
「はは、それは楽しみだな」
揶揄われていると思ったのか、本気で言ってるからね?と拓海はムッとしながらやけになる
優斗はまた笑って分かったよと答える
ーー多分、幼少期の俺が、一番夢見た光景なんだと思う
「もう時間も遅いし、このまま泊まっていっちゃおうか」
浴槽に浸かり、未だに頭や首にキスを落とす東のその言葉に今更ながら辺りを見渡す
「そういえば、ここって……」
「え?ラブホだけど」
「は……ハァ!?なんでそんなとこ……!!」
「今更!?優斗水族館で倒れちゃうし、俺はお姫様抱っこでもして電車乗り継いで帰っても良かったけど、それを後から知ったらまたプリプリするでしょ?」
「……ッ」
その正論にぐうの音も出ない。
だからと言ってこんな場所に連れ込むなんて、学校の知り合いにバレたらどう思われるか
「…………拓海は、周りにどう思われても良いのかよ……」
突然不安が襲いかかる
男同士でこんなことってやっぱり変だし、拓海はかなりモテる
言いようのないモヤモヤとした気持ちが膨れ上がっていく
きっとこれが嫉妬というものなんだろう
俺が拓海の周りの人間に嫉妬するなんて。
本当に、可笑しいくらいにどうしようもなく好きなんだなと痛感した
「どうって?別に、いっそみんなに言っちゃおっか!そしたら学校でも堂々とイチャイチャ出来るし~」
そして拓海は、自分の望む答えを言ってくれると確信していた。
狡いと分かっていても、それでもその言葉に安堵し、救われた気持ちになる
「それは、ダメだ」
「ええ~?なんで??」
ぶうと膨れる拓海の顔が愛しく感じる
「学校でも構わずイチャイチャなんてしてたら、お前がどこで発情するか分からないし……」
「俺が勉強に手がつけられなくなりそうで……進路に響いたら困る……」
そこまで言って東はなーんだと呆れた口調で言い返す
「優斗、そこまで進学に拘んなくても俺が一生かけて養っていってあげるから安心してよ」
はい、解決~と呑気に言う拓海に分かりやすく大きくため息をついた
「あのなぁ……って、おい!」
背中から伸びる東の手がやわやわと太ももをまさぐり始める
「色んなこと考えてたら、また勃ってきちゃった……優斗……もっかい、シよ?」
お尻の上辺りに固い何かを感じる
優斗はカッと顔を赤くし、やめろと言わんばかりに無言で後ろを睨みつける
しかし熱を孕んだ猛獣が、こちらを見据えていた
「……ひっ」
高校ニ年生という多感な生き物は、まだまだ長い夜を過ごすことになる
進路や家のこと、これからのことは、また次の機会に考えれば良い
長い一生の中で繰り返される
忘れられない記憶を二人はゆっくりと刻んでいく
fin.
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