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2:私の唯一(神様の視点)
ずっとずっと見てきた子。
自殺をすると魂は別の専用輪廻に渡ってしまう。自分のお気に入りの魂を見つけたがその子は幸せそうではなかった。
自殺をしたら私の元へは来ない。管轄外となってしまうのだ。でもその子は自殺を悩んでいつか来る「死」を待ってくれて私は安心した。
これで私の元へ来るルートは確実だ。あとは迎え入れるための準備をしなくてはと忙しなく動き始めた。
こんなにも生き生きとしている自分に驚く。
何せ私は無表情冷酷と言われる神であるから。ただ与える時は与え、神託を下し、天気を操り他国のように深い干渉はせずただ見守ることに徹していたのだから。
それに、神といっても、この世界の一部の国を任されているだけに過ぎない。そうはいっても神なことに変わりはないのだがね。
神にはそれぞれ「愛し子」となる唯一の魂を持った子が存在する。
その子たちはこの世界でなく、この惑星、輪廻のどこかに存在する。出会えるのは本当に少ないし、何千年と待ってもなかなか出会えない。そのため、思い入れが強すぎて、出会えた時それはそれは甘やかすのだ。必然的な結果だ。今まで血眼になって見つけた神たちの元にいる愛し子たちは誰も苦しそうでもなく、むしろその重い重い愛を心地よく受け入れている子たちばかりだからきっと問題ないだろう。愛し子たちの境遇は聞くまでもなく想像できるだろう。
神として見習いから国を任されるようになって早千年。ようやく見つけた私の唯一の彼は、早くこちらに来たいような感じだ。私が運命を捻じ曲げてしまうのは良くないが、ほんの少しだけ、ほんの少し支障がない程度に細工をした。
その日彼はいつもより遅く迄バイトという仕事をして、暗い夜道を一人で歩いていた。しかし、何事かいつもよりご機嫌に夜道を歩いていた。なんと可愛い事よ。今にも消えたいと頭の中で懇願しながらも、一人だけの非現実的に感じる夜道を楽しんでいる。
こんなことで喜んでしまうだなんて、まったく欲のない子だこと。こちらへ来たら存分に甘やかして差し上げなければと私は上がる口角を手で覆った。
しばらくすると細工した相手車両が結構なスピードで走って来た。細工した相手は先ほど別のところで殺人を犯し死体を遺棄して逃走を開始した者だ。それに、この道路のアスファルトは一部がいつ陥没してもおかしくない状態だった。それを早めて逃走車両を罠に嵌まれば完璧だ。
私の愛し子に向かってくる車は勢いのあまり陥没に落ち横転しながら彼を跳ね、引いた。車に乗っていた哀れな犯人も、私の愛し子もそれぞれ意識を失った。
(車に乗っていた犯人は、そろそろ標的を自分の手に収めたいがために殺害を計画していた捨て駒には丁度良い者だった。そんな奴に私の唯一をやられるのは何とも言い難いが使い勝手のいい、捻じ曲げてもいい奴はそう都合よく見つからないのだ。それに、彼が殺した人間は別世界の神の唯一だと知っていたためいいだろう。殺人犯が死んだあとは、そのあとの管轄をしている奴が二度目の罰を与えるだろう。)
私の元に唯一である君が来てくれて幸せに笑ってくれるなら、私はなんだってするよ。
徐々に弱くなっていく息。静まっていく鼓動を最後に、完全なる死を見届けた私は、その魂を私の国の域に運んだ。
それからは早かった。
用意していた器に彼の魂を固定しそのまま新たな身体を作り、ちょっと好みにカスタマイズして私の力に満ちた寝床へと寝かせた。やっと、やっと手に入った私の唯一。
これから魂と器が体になじむまでの1年。私はしばらく寂しいが彼はあちらの世界にいるよりはいいだろう。
それから息だけしている唯一の世話をし続けた。
私の神力で常に浄化され、花々が咲き誇る庭のような部屋。浄化はされているが、私の手で彼の体を朝夜拭った。徐々に人肌の体温を取り戻し、時差寝言のような呟きをするようになった。
そろそろ一年、彼は近々目を覚ますだろう。
儚い魂。私好みのちょっと貧弱な体。そのまま残してある黒目黒髪。髪の毛は型より長めにちょっと伸ばさせてもらったけどね。
ひとりでできることもあるが手伝ってあげないとすぐに疲れてしまう筋肉のつきにくい体。
いつか私にすべてを頼ってくれるようにおしえ、いいえ、甘やかしていかないとね。
朝の作業を終え、部屋に向かった時、私は歓喜に満ちた。彼の意識が目覚めたようだ。
私は必死に起きようと、声を出そうとする彼にさらなる愛おしさが湧いた。さっと別空間から取り出した水にストローを刺し、彼の背後に周り起こし腕の中に抱き込み水を与えた。特に疑問に思うことなく自然い受け入れてくれるこの子が愛おしい。
飲み終えてお礼を言ってくれる愛おしい唇、あぁ食べてしまいたいだなんて思って話をしていると、彼は驚いたように自分の役割は何だと聞いてきた。そんなことなどないというのに、ただ私の傍にいるだけでいいとそれだけ伝えた。
昔は愛し子を神から奪い搾り取っていた人間もいたようだが、そのせいで自分の国で愛し子を育てるより別のところで育て迎えることになってしまったがどちらも世界干渉に阻まれなかなかいいとは思えない。今回は救えたからいいものの、苦しんだまま気づかれることなく死んでしまった愛し子たちも多く存在する。
私は彼を見つけられて良かったと腕の中の温もりに浸っていると、突然嬉しいことを呟いてくれた。
きっとさっきの一緒に居てほしいの答えだろう。私の傍が心地がいいと言ったのだ。
私の唯一からそのようなことを言われて嬉しくないわけがない。
体が弱いからというのもそうだが、話すのにも体力を必要とする。それで無意識なのだろうが疲れたのだろう。私へ体重をかけてくれているこの心地よい重みと温かさに私は更に高揚した。
それから改めて自己紹介をしようとして苗字が言えず、私が了承無しにありのままの君で生きてほしくて消してしまったと言えば、そんなことはどうでもいいと言い感謝を述べてきた。向こうの世界よりこちらへの心持ちが傾いている証拠に嬉しくて堪らない。
いつか彼だけが呼べる私の愛称で、呼び捨てで気楽に読んでくれる日が待ち遠しい。
初めまして、ようこそ、私の唯一。
これから永久に、よろしくね。
ー ー ー
なんか早く受けちゃんと一緒に公開したくて 急いで書いてしまった。
もしかしたらちょっと書き加えたり修正したりするかもですがたいして内容は変わらないはずなので、へ~、くらいに思ってくれて大丈夫です。
あとは二人のその後(とある日の一部)を書いてとりあえず完結にしようかなと思っています。
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