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1:消えたい子、死にたい子(主人公の視点)

特に辛いわけでもなく、苦しいわけでもない。家庭環境も普通だし、友達はいないけど好きな趣味はある。そんなどこにでも良そうな平凡。ただただ普通の大学生だ。特にやりたいこともなかったけれど、行っておいて損はないかなと。両親には多額の金を出してもらって申し訳ないけれど、通うだけの大学生をして、気が付いたら就活生。 働くのかと取り敢えずどこかに就職できればと就職活動を初めて今や夏。出遅れ民族側になっている。 そんな僕が、いつも抱いている思いがある。  理由はよく分からないけれど、ただ不意に「消えたいな、死にたいな」と思う。そう思わされるほど辛く苦しい環境にいるわけでもないし、両親は放置教育みたいなだけで大人として、親として、することはちゃんとしてくれるし、基本ひとりだけど過度のいじめにあったわけでもない。 でも、昔から、ずっと、今この瞬間消えたいなって、早く死なないかなって。この人生早く終わらないかなって思ってしまうんだ。 ただ、自殺は見知らぬ一般人にも両親にも自身と関わり関係なく周りに迷惑がかかるみたいだし目立つなんてことはしたくないからひっそりと事故なら事故で(これも他人に迷惑かけちゃうけどね)、病死なら病死で、「ちゃんとした」死に方で消えたいと思っている。 一番いいのは病死だけどね。病死の場合、病院に行かず放置してぽっくり逝こうかなって思ってる。診断名が病死ってなってほしいだけ。自分以外誰も苦しまないしね。 もちろん、こんな願いを思い抱く度、僕の他に本当に苦しくて、普通の生活をするのが難しかったりどこにも助けてもらえない人が見えない世界に存在していることは重々承知で。そんな僕が死にたいと消えたいとこんな些細な理由で事を願ってしまうのは甘えだ、逃げだ、なんてことも分かっている。 今日も、死が僕を迎えに来てくれないかななんてボーっと考えながら夏休み前最後の授業日。 先生はこの夏休みが就活の山場とか言っている。まぁ、お盆もあるしそれまでに出せる資料は出しておかなきゃなと思いつつ、周りのようにこれと言って第一志望とかはない。いっそ早死にするんだから、入れるとこどこでも感謝すべきだとも思う。 どこかに消えたい、どこか遠くに、誰も知らないところに行きたいなと思うながら学校終わりから夜にかけてのバイトで働き、現在夜道の岐路である。 誰もいない道路の脇道。夜なこともあり闇が自分んを包み込んでくれる非現実的な感じがしてなんだか気分が良かった。 そうして気が付いたら、僕は車に跳ねられていた。 跳ねられて行った先で地面に倒れた僕の目線の先には、僕にぶつかったであろう車が横転した状態で倒れている。人が出てこないから、きっと乗っている人は意識を失っているのかななんて冷静に考えてる自分がいて笑った。 普通なら痛いとか死にたくないとか思うんだろうな。でも僕は今、凄く気分がいい。やっと待ち望んでいた結果が迎えに来てくれたのだから。 僕はこの結果に満足して、遠のく意識に従って目を閉じた。  * * * *  ――はやく、……く、目を覚ま……て、れ。わたしの……、いとしいこ……。  * * * * ふ、か、ふ、か、? なんで?それに、誰かの、声が聞こえた気がしたのに。 はじめに起きたのが体で、体に触れる部分からはふわふわとした感じのマット?のような感じのところに寝っ転がっている。熱くも寒くもなさそうな部屋に僕は横たわっているのだろう。ここは死後の世界というものだろうか。感覚だけで辺りを想像しているうち目が開けられそうだなとゆっくりと今いる世界を瞳に映していく。 「……、っ、」 声は乾燥からなのか出なかった。その時扉の開く音がして「おはよう……。やっと起きたね。私のいとしいこ」どこかで聞いたことのあるような声がした。 僕は体を動かそうにも何事か重かった。ずっと寝た切りだったのだろうか。ただかすれたような声しか出なかった。 「あぁ、声が出ないね。ちょっと待って水ね。これ、体起こして飲ますからね」 そういって慣れた手つきで僕を起こして木の枝みたいなストローを刺して飲ませてくれた。 「……あ、あの、あ、りがとう、ございます。ここは、どこですか?……僕は、長く寝てたんですか?」 「そうだね。死んでしまった後体が弱っていてね。回復するまで私が世話をしていたのだよ。それで、まずここはハーデン国と言って私が管理している国だよ。私はこの国の管理、神様をしている。そして君は私の大切な大切な愛し子だよ」 愛し子?!それって転生系のファンタジーによくあったものでは、良くない話とかを思い出して僕は急いで確認した。 「愛し子って、何を、するのですか?役割が、あるんですか?」 それに対して神様だと言った人は、逆にとんでもないとむしろここで静かにいつまでも私といることが君の役割だと言われた。それと、僕は神様の愛し子になったから寿命が一緒で死ぬことが簡単には出来ないけどいいかいと聞かれた。 それは別に今は……気にしていない?あんなに死にたいだの消えた消えたいだの思ていたのに、今抱いている気持ちはむしろ神様に会えた嬉しさと、飲み物をもらうために後ろから抱き起こしてもらったままの体制が心地よくてずっとくっ付いていてほしいと思ってしまっている。 「……心地、よい?です。ので、今は、このままがいい……です」 「本当かい!イルナ!私といるのが心地いいだなんて嬉しいなぁ。あ、それはね。私とイルナは神と愛し子だけど、私の唯一の番、伴侶でもあるんだよ」 「伴侶?って、夫婦ってこと?でも僕は男で、神様も男に見えるけど、神様だから特別?」 「あぁ、神様の伴侶に性別はないんだ。それにいきなり伴侶だなんて愛し子で驚いただろうに、意外と反応が静かで私が混乱しているよ」 そのことに、僕は特に驚きはしなかった。痛いことがないなら何でもいいやという気持ちが強かった。何もなく静かに平和的に過ごせたならそれでいいやと……。ってさっき思ったけど僕の名前、神様知ってたけど自己紹介をしていなかったことに気が付いた。 「あの、神様。別に痛いことがなければ、いいかなって、だから、特に気にしてませんでした。それと、××イルナ……?×、×、イルナ……、なんで?苗字が、言えない?」 「それはね。私の願いでそうしてしまったんだ。ここで新たに、苗字に縛られることなく【イルナ】として生きてほしくて苗字は消したんだ。勝手にごめんね。イルナの意見もこれは聞けばよかったな」 神様は謝って来たけど、僕はむしろ何物でもないただの僕に、【イルナ】になれたことで肩の荷が落ちた感じがしてむしろいいかもなって、親には申し訳ないけれど思ってしまった。 「あの、神様、別に僕はただの、イルナでいられることは、逆に嬉しくあります。だから、謝らないで下さい」 「イルナ、ただのなんて言わないで、イルナは私の大事な唯一の伴侶なんだよ。でもその前に私も自己紹介をしないとね。私の本名は【ブビリア・ハーデン】だ。この名前はイルナしか教えないからね、それと私のことは「リア」と呼んでほしい」 「あ、はい、リア、さま」 「ん~、様はいらないんだ。出来ればなしでいたいけど、おいおいね」 それから、数日過ごして分かったことは、僕の体がポンコツってこと。動けるけど沢山は無理、すぐに疲れてしゃがみこんだらどこから来たのか神様が僕を運んでくれる。嬉しそうにむしろもっと頼ってねなんてニコニコしているから悪い気はしない。 そして、体力に続き力もなかった。体力は、会話をしながら徐々に息切れになってきていたからそうかななんて思っていたけど、力までないだなんて本当に貧弱だ。 パンにジャムを塗りたいのにビンの蓋は開けられないし、分厚い本も昔なら自分の頭くらいまでの高さを持てたのに、胸下くらいが限界、というか持てたとしてもすぐに歩けなくなる。ポンコツ具合。 だから今は、神様に少し歩いてはもう無理と抱っこを願う。物を持つも神様が先確認し、これは無理だねこれだけお願いと選別して持たせてくれるようになった。 そんな暮らしも早くも一か月が過ぎていた。 幸せそうな神の顔を見て、最近僕も幸せで、前世で感じなかった心の温かさを感じるし、なんだか心の穴が埋まっていく、満たされていく感じがする。たまに、ちょっと、ほんのちょっとだけど、もっとと神の存在をねだってしまう時もある。 きっと迷惑だからなるべく我慢してるけど。 それでも、嫌な感じはしないし、ずっと一緒に居てほしいと思うんだ。 僕は抱き上げてくれたリアの胸にしがみ付いて擦りより顔を見上げ「リア」と呼んだ。 だからね。 よろしくね、僕の唯一の神様

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