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第3話

 1人になった文維は、自分の知る范青䒾について頭の中で情報を整理した。  今でこそ、唯一の恋人である天使のような唐煜瑾に夢中な包文維だが、彼との出会いまでは、その自身の魅力を遺憾なく発揮していた。  長身痩躯のモデル並のスタイルの良さに加え、知的で整った顔立ち、男女を問わずに魅惑するフェロモンをまとい、クールでありながらカウンセラーとして人の心を開くチャーミングな笑顔や態度も合わせ持っていた。そんな魅力的な若く、美しい男を周囲が放っておくはずがない。  それらは、たいてい大人同士の割り切った関係で、恋愛と言うよりも娯楽の一環とでもいうような、後腐れの無い単純な「遊び」の繰り返しだった。  年上の美女、絶世の美少年、自国の中国人はもちろん、留学先で知り合ったアメリカ人、国際都市上海ではグローバルな交際も思いのままだ。  そんな幅広い「交際」を楽しんできた文維だったが、その中の1人が上海の数多い有閑マダムだった范青䒾だった。  見た目は清楚で艶やかな美女だった。夫はフランス人の貿易会社社長で、裕福で、優雅なライフスタイルを満喫しているように、周囲からは見えた。  当時、文維が気に入っていたフランス系のシックなバーで、定期的に開催されていたセレブ向けのパーティーで、彼女と知り合った。  一見すれば、楚々とした貞淑な、ありふれた裕福な人妻の范青䒾だったが、実は性的に奔放で実に大らかな女性だった。  彼女もまた、文維と同じく老若男女を分け隔てなく愛することが出来た。  文維と甘美な夜を過ごした翌日に妖艶な年上の女優と過ごしたり、別の日には若く美しいホテルのベルボーイと五つ星ホテルの最上スイートルームで戯れたり、夫であるフランス人の友人と秘密の情事を楽しむこともあった。  けれど、これもまた文維と同じく、たった一晩のアバンチュールに過ぎず、感情に振り回されることのない快美でドライな関係ばかりだった。  そんな、上海富裕層の無邪気な遊びグループの仲間だった包文維と范青䒾だったが、1年前に彼女が夫と共にフランスに行ったことで、以来会うことはもちろん、文維は思い出すことすらない希薄な関係だった。  その彼女が帰国していたことさえ驚きで、しかもいきなり新規の患者として文維の前に現れるとは意外だ。  今さら彼女との関係が復活するはずもないが、文維は范青䒾との再会に、なぜか言い知れない胸騒ぎを覚えた。

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