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第3話
「潤、趣味が悪いよ。あんな女の人が好きなの?」
「何で、俺の名前――」
「さっきの女の人が呼んでたじゃない」
せっかくのミスキャンパスとの夜を台無しにしておいで少年は全く悪びれる様子もない。
潤は腹を立てて美少年を怒鳴りつけた。
「いったいおまえは何者なんだ!? 俺はおまえなんか知らないぞ!」
ましてやエッチなことをした覚えなどこれっぽっちもない。だいいち潤の好みは大人っぽく色気があるタイプだ。決して幼さの残るような可愛いタイプではない。いや、それ以前に潤はストレートだ。
「今朝会ったじゃない」
美少年は言う。
「あ?」
これほどの美少年だ。好みでなかっても一応記憶の端に残るはずだ。でもまったく覚えがない。
「助けてくれたでしょ、俺のこと。ひなたから陽のささない場所に移してくれた」
「…………」
「そう、俺はあのとき助けられた雪うさぎの精なんだ」
「………………」
歌うように楽しげに言う少年に、潤は大きく溜息をついた。
「……あのなあ……」
「うん?」
「どこかで俺の行為を見ていたんだろうけど、そんな見え透いた嘘をついてどうすんだ?」
潤は思う、この自称雪うさぎの精は、どこかの家出少年だろう。どんな事情があるかは知らないが、親の元へ返すか、警察に連れて行くかしかないだろう。
「俺がついてってやるから、自分の家へ帰――――」
「嘘じゃないもん!」
少年が潤の言葉を遮って強く主張する。
「そんな昔話か小説みたいな話あるわけない」
「分かった。じゃ証拠を見せればいいんだよね!?」
言うが早いか少年の頭からぴょんとウサギの耳が出て来た。
「……は?……」
潤の息が一瞬止まる。
「尻尾もあるよん」
少年が後ろを向くと、そこには確かにウサギの尻尾みたいなものが。
潤は息をするのを忘れて、まじまじとそれらを見た。
え? あれ? ウサギの耳? 尻尾? ……いや、よく出来た作りものだ。
潤は手を伸ばすとウサギの耳を思いきり引っ張った。
「いたたたたっ! やめてよ、なにすんのさ」
「……作り物じゃない?」
「作り物なんかじゃないよ! もうっ」
ぷりぷり怒る少年の前で潤はこの『現実』をどう受け止めるか悩んでいた。
そして出した結果が。
「……寝よ」
現実逃避することだった。
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