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第6話

 隣のサラリーマンは俺が一人暮らしなことくらいは知ってるはずだ。たくさんの食材を借りに来た雪を見てなんて思っただろうか? おまけに子の美少年ぶりだ。  まさか俺がたらしこんだとか思われてるんじゃ……。 「雪、隣の住人に自分のことなんて言ったんだよ!?」 「え? ああ、潤に助けられた雪うさぎですって言った」  ……終わった。  隣のサラリーマンは雪のことおかしいと思っただろうし、俺はそんなちょっとおかしいいたいけな美少年をたらしこんだ男と思ったはずだ。  潤が頭を抱えていると、雪がキャラキャラと笑った。 「嘘嘘。雪うさぎだなんて言ってない。ちゃんと従兄弟だって言っといたよ。だって、あのゆきうさぎのエピソードは潤と俺だけの秘密だもん」 「…………」  だめだ。朝からまたこいつに振り回されてる。  溜息をつく潤の腕に雪が自分の腕を絡めて来る。 「そんなことより朝ごはんできたから食べよ」 「食欲ない」  潤はいつも朝ごはんは食べない上に、昨夜からの雪の出現により頭がパンクしそうでとても食事なんて 喉を通りそうにない。 「そんなこと言わないで。ほらここ座って」  だが、雪に腕を引っ張られてダイニングにテーブルに座らされる。 「さ、召し上がれ」  ニコニコ顔で進められて、仕方なく潤は味噌汁を手に取った。  そして、そのいい香りに誘われるように口をつけると、 「おいしい!」  おもわず言葉が飛びだした。  雪の作った味噌汁はとてつもなく美味しかった。母親が作るものよりおいしい。  味噌汁だけではない。どの料理もおいしくて、朝は食欲がないのが嘘のように潤は雪の作った料理をおかわりまでして完食した。 「雪、おまえ、料理うまいな」 「そりゃ子供のころから叩き込まれてきたからね」 「え?」 「なんでもない。じゃ、晩ご飯は何食べたい? 潤の食べたいもの何でも作ってあげるよ」 「そうだなあー……って夜までいるつもりなのかよ!? ここに!?」 「だめ?」 「だ・め・だ」  すると雪がウルッと目に涙をためた。 「じゃあ、俺どこへ行けばいいの? 潤のとこしか行くとこないのに」  さめざめ泣き始める。 「ウソ泣きしても無駄だぞ」  だが。 「俺、どうせ春には溶けちゃうんだよ? それまでくらい置いてくれてもいいじゃない」 「う……」  そうか、今二月だから、来月の終わり……遅くても再来月にはあの雪うさぎは溶けてしまう。雪の命はそれまでなんだ……。  そんなふうに思うと、やはり胸の奥が痛んだ。  そして、結局潤は折れた。  こうして潤と雪は一緒に暮らすことに決まったのだった。

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