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第1話

「真嗣さん?大丈夫ですか?」  真嗣が電話を切った後、経理の女性パート職員が、声をかけた。二年近く振りの隆也との電話で、真嗣は涙を流していた。 「あぁ、すいません。大丈夫ですよ…その、すごい久し振りの人に電話をかけたんで、つい…」 「だったら、いいんですけど…『桜日和』の伝票のチェックが終わったら、こっちにお願いしますね」  「はい。わかりました」  二年振りに聞いた隆也の声や話し方は、変わっていなかった。久し振り、元気にやってるなと、朗らかな声で挨拶をして、泣いて声を詰まらせる真嗣に、やっぱりお前は泣き虫だな、と二年振りの電話にも拘らず、呆れるような言い方をした。その後は懐かしむでもなく、隆也は仕事の話しを淡々と進めた。  そして、二週間後に隆也が今勤めているレンタルドレスとウェディング企画会社を訪ねることになった。  隆也からの手紙には、『お前と俺のブランド』と嬉しい言葉が書かれていた。さっきの電話では、詳しくは聞けなかったが、二年の間には、それなりの苦労もあったのだろうと推察される。  真嗣は隆也の声が聞けて嬉しくて、話せて嬉しくて、そして会う約束ができて嬉しかった。がこの二年間で隆也の気持ちは変わっていないのだろうか。引っ越しの前日に『俺も、お前と一緒にいたかったよ』と言って抱きしめてくれた、あの時の気持ちは今も隆也の胸の中に残っているのだろうか。さっきの淡々と仕事の話しをする隆也の声を聞いたことで、急に漠然とした不安がよぎってきた。ホームページを更新する度に、隆也は見てくれているだろうか、といつも想っていた。手紙には、いつも見ていると書いてくれていたが、それは社交辞令なのかもしれないと思い始める自分がいる。隆也と初めて会った時、社交辞令は嫌いだから、とはっきり言われたことを思い出すが、いつまでも、本音だけではやっていけない。真嗣に対してもそうなっていったのかもしれない。  ノベルティとして『桜日和』を使いたいという新たな納品先ができたことを、真嗣は父親と伯父に報告をしに行った。  事務所の外に行くと、吐く息は白く、まだ冬の最中だった。

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