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第17話
隆也の偽の体調不良から二週間が経ったある日、隆也の元に真嗣から連絡があった。話しがしたい、と。
隆也は覚った。真嗣は今まで隆也に話しがしたいという言い方はしたことがなかった。真嗣も高倉酒造の将来への決心をして、隆也に伝えにくるのだと理解した。隆也はもう少し先だと思っていたが、案外早かったんだと、真嗣の決断を受け入る覚悟をした。
約束の時間丁度に隆也の家のインターフォンが鳴った。隆也は扉を開けると、今まで見たことがなかったスーツ姿の真嗣が立っていた。
「お前、スーツなんか着て、どうしたんだよ」
「…まぁ、ちょっとな」
誠実に別れ話をするために、スーツを着てくるあたり、真嗣らしいと隆也は思った。いつも通りにしようとしても、今から真嗣から言われるであろう言葉を想うと隆也の心は叫び出しそうだった。身体が小刻みに震える。太腿の辺りで握った拳は感覚がなかった。
リビングにいる真嗣と目が合わないように隆也はキッチンの方へ行こうとした。
「隆也…こっちに来て」
隆也はゆっくりと振り向き、真嗣に近づいた。
真嗣は澄んだ優しい目をしていた。
真嗣は隆也の前で、跪いて右手を差し出した。
「隆也…俺の一生のパートナーになって下さい」
「………」
目まぐるしい感情のせいで隆也は言葉が出なかった。
「できれば、俺をここに住まわせて下さい」
「お…お前…何言ってんだよ」
隆也はさっきまで自分が想像していた展開と、今現実に起こっていることが、あまりにも違い過ぎて眩暈を起こしそうになった。
真嗣は差し出した右手を一向に掴んでくれない隆也に、少し不安になった。
「だめ…?」
「い…いや、そうじゃなくって。お前…その…高倉酒造は…どうすんだよ」
真嗣は立ち上がり、隆也の両肩に優しく手を添えて言った。
「伯父というか、高倉の長女夫婦に任せることになったんだ。酒作り以外の企画や広報的な仕事はリモートで続けていくんだけどね…だから…」
隆也の顔は涙でぐしょぐしょになっていた。その涙で濡れた頬を真嗣は両手のひらで包み込んだ。
「なぁ、隆也…俺の一世一代のプロポーズだよ…返事をくれよ」
「いいに決まってんだろ、バカっ」
隆也は真嗣の胸に頭突きをした。真嗣は苦笑して隆也を抱きしめた。
「よかった。高倉酒造の跡継ぎは俺じゃなくてもいいけどさ、隆也のパートナーは世界中どこ探しても、俺だけだよな」
「あぁ、お前だけだよ。お前しかいないよ…」
隆也はまだ信じられない現実に、少し怯えながら真嗣に聞いた。
「なぁ、真嗣…本当に、ここに来てくれんのか」
真嗣は隆也の涙を指で拭いなから言った。
「うん…これからは、ずっとお前の傍にいるよ」
そして、今までで一番優しい声で囁いた。
「愛してるよ、隆也…永遠にね」
「俺も…愛してる…愛してる…愛してるよ、真嗣」
二人は時間の経過も忘れ、ずっと抱き合った。
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「それじゃあ、母さん行くからね」
真嗣は隆也が運転する車の助手席に乗り込んだ。
「気をつけて、いってらっしゃい。隆也さんも、運転無理しないようにね。真嗣にも運転させるのよ」
「そうですね。そうします」
隆也は笑いながら言った。
真嗣と隆也はドライブ旅行と称した新婚旅行へ出掛けようとしていた。そして途中で会う人に届けようと『桜日和』を手に入れに、高倉酒造に寄った。
二人が乗った車は静かに高倉酒造を出発した。
「なぁ、俺たちが本当にカップルになったって言ったらさ、美香ちゃん驚くだろうな」
「あぁ…でも、あいつのことだから、ほら、私の言った通りになったでしょ、なんて言いそうだけどな」
「そうだなぁ…言えてる」
真嗣はクスッと笑った。
二人は美香の住む家と二人が結婚式を挙げたあの教会がある町へ車を走らせた。
本当に、おわり。
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