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第26話 レッドスター参上!!!
「ちなみにその子、本当に十二歳だよ」
桃源郷血の繋がらない兄弟姉妹の末っ子。長男次男とかは産まれた順や年齢順でなく、拾われた順(または、母上の気まぐれ)なので年下の兄とか姉が普通にいる。
指を二本立てて笑っているキミカゲをよそに、三人はひそひそと呟き合う。
「なあフリー。知り合いにオキンさんより強い奴、いるか?」
「いません」
「僕も……」
凍光山で卵を産んだ火竜ならもしかして……いやでもどこにいるか知らないしな。
オキンより強いとなると、同じ竜か神か星霊くらいしか候補がない。
フリーは人差し指を立てる。
「そうすると、神様に求婚するしかないですね」
「強くて利発で優しい神、か。アキチカ様に聞いてみっか」
「神使殿は仲人じゃないんよ……」
真面目に話し合っている三人に気を良くしたのか、少女先生はベッドの下から出て話に混ざろうとした。恋の話は好きだ。腕に力を入れる。
むちっ。
「あ、あれ?」
おかしい。身体が動かない。どこかがベッドの天井につっかえている気がする。
「ふんっ。ふんっ!」
何度も力を込めるも、つっかえた尻は前にも後ろにも動かない。
「……ふえ」
少女の眉が八の字に下がる。
ばたばたと手足を動かす。
「うおおい。尻がつっかえて動けなくなった。助けてええ」
情けない声がする。
見ると、ベッドの下からわずかに出た足首がバタ足している。ニケがベッドの下を覗き込むと、むっちりとしたお尻がベッドの天井につっかえていた。
「「「……」」」
顔を見合わせる三人。言いたいことはあったが、それはあとでいいだろう。
三人は立ち上がる。
「僕がベッドを持ち上げるから、その隙に救出しろ」
ニケならベッドの一つ――どのくらいの重さかは知らないが――持ち上げるくらい余裕だろう。リーンが頷き、フリーは袖をまくる。
寝台の縁の下に手を入れ、せーので持ち上げる。
「せーの。ふんっ」
ぐぎぎ……っ。
予想より重いのか、ベッドは持ち上がらない。
「ニケ。頑張れ!」
「俺も手伝う!」
リーンも加わり、歯を喰いしばるもベッドは根付いているかのよう。
そして気づく。それもそのはず、寝台は床に固定されているのだ。メギメギと不吉な音がすると思えば。
「どうしよう……」
ニケとリーンは手を放す。
「ふんぎーっ」
フリーが足首の方を引っ張ってみるが、ジェリー大根は引っこ抜けない。
暗闇で、少女はぐるぐると目を回す。
「うわああんっ。俺は狭いとこが苦手なんだー。早く助けてええぇっ」
「なんで入っちゃったのっ?」
足首を掴んだままフリーは周囲を探すが、救助に使えそうな道具はない。
「っ……」
寝ている場合じゃないと思ったのか、キミカゲが起き上がろうとするが稲妻のような痛みが走る。
「ぴぎっ!」
「キミカゲさん。動かないで」
フリーが泣きそうな声を上げる。どうすりゃいいんだこのおじいちゃんと孫娘。
狭い。暗い。怖い。赤ん坊のころの、覚えているはずのない火事の記憶が、脳内で燃える。
ついに泣き出したジェリーは両手足をめちゃくちゃに動かす。
「火があああ! 早く助けてええええっ」
「火? うわっ」
フリーはたまらず手を放す。
「うええええっ。狭いよ。怖いよぉぉ! ママあああぁっ」
「……」
本当に十二歳なんだなと、リーンは妙に安堵した。
――って、和んでいる場合じゃねぇ! 女の子の危機だ。
「誰かヒトを呼んできぶっ!」
駆け出そうとしたが動きを読んでいたニケに、足首を掴まれ転倒する。
「ニケさん? 俺様の鼻になんの恨みが?」
ぶつけた鼻を押さえながら背後を睨む。涙が滲んでいるのでまったく怖くはないが、悪いことをしたとは思う。
「すぐにどっか行かないでください。三人でなんとか隙間を作った方が早いです」
「俺とニケさんで持ち上がらないのに、モヤシ加えただけで寝台が上がるわけないだろ!」
「ぐっふ」
流れ弾を喰らったフリーが胸を押さえる。
「びゃああああっ。オキンちゃああああん。ママああああ~」
母に助けを求めることが出来る少女に、ニケは羨ましいような寂しいような眼差しを向ける。
リーンは焦りといら立ちが混ざった声を上げる。
「とにかく! 持ち上げるにしても、人手が多い方が……」
そこまで言い、リーンははたと動きと口を止める。
――人手……。
リーンはキミカゲの方を向いた。
「レッド! 手を貸してくれ」
リーンの言葉にキミカゲ除く全員が「?」を浮かべる。おじいちゃんは腹に仕舞っていた短剣を引き抜く。やはりほのかに光っていた。
その短剣から、きゅぽんっと赤いヒトデが飛び出す。
「あっ」
やばい待って! と言いたげにキミカゲは顔を青くするが、遅かった。
ジャジャッジャッジャ、ジャッジャッ、ジャンジャンジャーン!
『夜光戦隊隊長レッドスター! 今度こそ同士の声にて参上ッ』
空中で一回転決めたヒトデ……星霊(せいれい)はスタイリッシュにベッドに着地すると、お決まりのポーズを取った。
どかーん。
「「「……」」」
呆然とするフリーたちが見守る中、室内だろうと容赦なく赤い爆発が起こる。隣室(カーペットの部屋)が吹き飛び、飛んできた破片がこつんとフリーの頭に当たった。
「ええええっ! なにっ? 何の音?」
唯一、見えていないジェリーが恐怖で声を上げる。
リーンが「これどうにかならんか……」と言いたげに顔を伏せるが、すぐに頭を振って切り替える。目を点にして口を逆三角にしたニケとフリーが石像化しているが、構っている場合ではない。
「レッド! ベッドの下に女の子が。助けてくれ」
『承知!』
赤いスカーフをなびかせ、とうっと飛び上がると赤い星は宙で静止する。
『いたいけな少女を拘束するベッドよ! お前の悪行もここまでだ。それと出来れば、同士よ。自分の危機でも我らを呼んでほしい』
「……」
リーンは苦い顔で目を逸らす。
ベッドを見下ろす赤い星。キミカゲは嫌な予感がした。
『喰らえ。宇宙最終深淵奥義、個人版』
「奥義⁉」
キミカゲは裏返った声で悲鳴を上げる。
『レッドパーーーンチ‼』
やはりリーダーだけ拳が武器のようだが、その拳に宿る赤い光。
感じる。それは小さな太陽のようなものだと。振るわれればどれほどの威力となるのか。だが誰も止めることは出来ない。とんでもない破壊の力と共に解放され――
「ていっ」
―ーる寸前で、リーンがレッドにチョップを入れた。
『あふんっ』
ぱっと赤い光が消え、レッドはベッドに落ちる。
『どうした? 我が同士よ!』
いてて……と頭? をさする星に、リーンは冷静に寝台を指差す。
「これを、持ち上げて。オーケー?」
『……う、うむっ』
こくんと頷き、ニケと同じように手? を差し込む。
『ふんっ』
紙切れのように寝台が持ち上がる。もちろん固定していた釘らしきもの(ボルト)は弾け飛んだが。
「ふえ?」
涙と涎と鼻水を垂らした少女の全身が露わになる。「今だ!」と、我に返ったニケが抱えてその場を離れると、寝台は元の位置に戻された。
「……ぴえ」
目の前にある寝台。自由になった身体。
抜け出せたと分かるやいなや、少女はわんわん泣き出した。
「うええええっ。ごあ、怖かったようううう。ママああああん!」
「よしよし」
「いいこいいこ」
ニケと役に立たなかったフリーが頭を撫でてなだめる。キミカゲはホッとしたように肺の中を空にし、リーンはぎゅっとヒトデを握りしめた。
『む? どうした同士よ! 感動の再会のハグか? どうして最近、我らを遠ざけていたのだ?』
ぎゅううう……
『リンアンルギンよ! そう強くハグされると照れるが、く、苦しいのだぎゃ?』
もがもがとレッドは手足? を動かすがリーンの目は冬の夜空のように冷たい。
あらかた握りつぶしたところで、リーンはやっと口を開く。
「レッド。助けてくれて、ありがとうな?」
『き、気にするな……同士よ。それであのちょっと、ぐるじいむぎゅぎゅ……』
隣の部屋だった場所に滝のような雨が降りそそぐ。壁がなくなったことにより寝室にまで風が吹き込み、フリーが震えている。
そこで、大砲の発射音のような声が轟いた。
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