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第3話 エイリアンとの出会い
扉の横にあるインターフォンを押すと、ピーンポーンと日常的に聴き慣れた音が響いた。
プツッと音がすると同時に聞こえたのは、低くて落ち着きのある日本語だった。
「はい」
「日本政府の紹介で来た森瀬史哉です」
「お待ちしていました。少々お待ちください」
その指示に従いインターフォンの前で待っていると、十秒もしないうちに重厚な扉が左右に開いた。
途端、むわりと湿気が全身にかかった。
出てきたのは一人の大男だった。
全体的なシルエットは地球人とそう変わりない。
青みがかった肌にはうっすらと鱗のようなものが浮かんでいる。
髪は黒く、肩までのドレッドヘアを頭頂部で結んでいる。
目はスモーキークォーツのような鮮やかな瞳をしているが、瞳孔は爬虫類のように縦に長かった。
差し出された手の指と指の間には手のひらから第二関節までのところに薄い膜がある。
「ウテヤラカン星寮へようこそ。私はハララヨナカサムです。言いにくいので、サムと」
会うのがエイリアンで、こういう容姿をしていると理解して来ていたが、実際に見るとやはり驚くものだ。
失礼のないようにそれを隠しつつ、史哉はサムの握手に応じた。
握った手はひんやりとしていた。
「森瀬史哉です。呼び方はサムの呼びやすい方で」
「ではフミヤと。さあ、こちらへ」
サムはにこやかに笑うと建物内へ促した。
中は普通のビルのようだが、気になったのはやはり湿気だ。
そこら中に加湿器があり、部屋が水浸しになるのではないかというくらいに加湿してある。
まるで日本の梅雨のようだ。
暑くないので不快感はそこまでないが、少し肌寒い。
某国だから半袖も必要だろうと何枚か持ってきていたが不要のようだ。
「すみませんねぇ。私たちの星はほとんど海で、生活しているのも海の中なんです。だから湿気がないと苦しくて……」
「そうなんですね。ああ、だから水かきがあるんですか」
「そうです。陸地もありますが岩場ですので、そこで日光浴したりしますけど、健康を害さない程度の必要最低限しかしませんし、陸地も湿度が高いんです」
「日光浴が必要なんですか?」
「ええ、地球でいう『くる病』になるんです。着きました、ここです」
案内されたのは一階の一番奥にある角部屋だった。
中はホテルのようで、ベッドや机、テレビ、狭いクローゼットに風呂とトイレが備え付けられていた。
ここは加湿されておらず、からっと乾いていた。
「このビル内は湿気に耐えられるように私たちの宇宙船と同じ材質で作られています。だから加湿し放題なのですが、地球の方の体には合いませんからね。ここは地球の方専用の部屋になっています。今日はここで休んでいただき、明日から仕事を始めましょう」
「そうしていただけると助かります。十三時間のフライトは中々辛いものがありまして」
「食事は日本食を用意しています。時間になったら持ってきます」
「何から何までありがとうございます。お言葉に甘えて、今日は休みますね」
「はい。では失礼します」
サムは終始笑顔で対応し扉を静かに閉めた。
史哉はまず荷解きをした。
ここには約一年滞在する予定だ。
ランジェリーが完成しなければ滞在期間も伸びる。
エイリアンのランジェリーなんて中々興味深いものではあるが、主力のデザイナーを失った自身の会社が心配だ。
史哉が不在でも回るように人材育成はしているし、こちらにいる間もリモートで業務をするつもりだ。
だが、やはり慣れた環境で仕事をやりたいものだ。
史哉は衣類をクローゼットへ、衛生製品を風呂に持っていき、自前のパソコンを机に置いた。
あとは細々としたものを取り出しては所定の位置に置き、期間限定の城ができたところでシャワーを浴び、ベッドにダイブした。
史哉はサムが食事を持ってノックするまで爆睡していた。
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