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君の作った地獄で生きるよ
✳薄暗いです
✳近親からの恋情の描写あり
まるですべてから見捨てられているようだ。
沈みかけた太陽が町並みを赤く染める。
冷房のついた室内で、外の暑さも感じず自堕落に時間を浪費していると自分が人間として駄目になっていくのがわかった。
もう、何日外に出ていないのか考えることすら億劫だ。必要なものを通販で購入し受けとる。それだけでただ、生きている。
リビングから見える兄の部屋の扉をじっと見つめる。両親を事故でいっぺんに亡くした俺たちは残された兄弟二人で生活するしかなくなった。
両親の遺産と、兄が株とかで儲けた資金のお陰で当分なにもしなくても生きていけることがわかった今。
将来だとか、未来のことはなにも考えられない。ただ、時間が過ぎていくのを待っている。
「お前はなにもしなくていい」
部屋から出てきた兄は自分を見つけると必ず近寄ってきて優しく言ってくれる。
髪も伸びっぱなし、隈も出来てみすぼらしくなっていく兄はいつでも泥のように甘い。
だから、言い出せない。
そもそも、兄は自分が生まれたときから優しく、甘い兄だった。幼い頃は兄の後ろをついて回っていたと母から聞いた。
「しつこいなら、しつこいっていっていいのよ」っていったんだけど、お兄ちゃんは「これでいい」っていうのよ。
近所の人だって、本当に仲がいい兄弟だって言ってくる。
進路希望調査の紙を食卓に出して、自立したいと言ったとき。兄は部屋にいて両親と自分だけがリビングにいた。
そうなるように仕向けた。
いままで、重要な選択をするときに真っ先に兄にきき、兄のアドバイスをもとに決めてきた。これからは自分で何もかも選んでいくのだ。その練習のつもりだった。
両親は自分の成長を喜んでいくらでも相談に乗ると言ってくれた。その矢先に事故を起こした。単独事故だった。夫婦で小旅行に行く途中。自家用車のブレーキが効かなかったようで崖から滑落したのだ。車は大破。
両親は帰らぬ人となった。
葬儀の日、兄はこれからは二人で助け合って生きていこう。と優しく言った。悲しくて、それどころじゃなかった自分は兄を突き放した気がする。けれど兄は自分を抱き締めて、大丈夫だといい続けた。
本当に仲のいい兄弟ね、と弔問に来た人からいわれた。二人なら大丈夫という言葉に、兄はーー照れ臭そうにしていた。
ぼう、としていたらまた時間が経っていた。すっかり夜になり窓から住宅街の明かりが見える。暖かな光景を眺めながらどうしてこうなったのだろう。と思い続けている。
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