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後編

「やっと気づいた」  え、何、こいつ俺のこと見えるのか!? 「航太には言ってなかったけど俺、普通の人が見えないものが見えたりするんだよね」 「って、三坂、霊感強いんだ」 「まぁ普通の人よりは」 「だからか。飲み会の時からちょくちょく、三坂と目が合ってたのは」  なるほど、ガッテン。 「そう。最初、居酒屋入る前、目の前に航太がいて俺びっくりしたけど、嬉しかった」 「俺も久しぶりに顔が見れて嬉しかった」 「7年間ずっと三坂が出てきてくれないかなって願ってたからさ」 「……お盆の一日しかこっちの世界には来てないからなー」  てか7年間もそんなことを願ってたのか。  そんな時間の無駄だと思うが…。 「ふーん。じゃあ、航太はこっちの世界には全く未練はなかったってことなんだ」  少しいじけた感じに言った三坂。 「んー。未練がなかったわけじゃないよ。青春時代真っ盛りの14歳で死んだんだから。でも、今の暮らしもなんだかんだで楽しんだよなー」 「ふーん。まぁ航太らしいな。楽観的というか何というか…」  まだいじけている三坂。  大人っぽい三坂が子供みたいにいじけてる姿にはギャップを感じる。  これが俗にいうギャップ萌えというやつか。 「毎年お盆はこの世に来ているのか?」 「まぁ、家族の顔見たいしな」 「そっか。たまたまタイミングが合わなかっただけなのか」 「ん?」 「毎年、お盆は墓参り行ってるからさ」  毎年、俺の墓参りに来ていたなんて知らなかった。  三坂が1年のうち一回でも俺のことを思い出していてくれたことが嬉しい。 「…あっちでも楽しくやってんのか航太は」 「えっ、あ、うん」 「――俺は航太がいなくなってからずっと全然楽しくない」 「……え?」 「二人で過ごしていた日常も一人になったら全部が色あせて、モノクロに見えるんだよ」  俺の顔を見つめている三坂は、俺の手を握った。  ……あっ、三坂の体温感じる。  凄く温かい。  いや、俺が冷たいから温かく感じるのかもしれない。 「航太がいなくなってずっと後悔していたことがあるんだ。早く俺の想いを伝えとけばよかったって」 「……想い?」  三坂は俺の手を握ったまま、大きく深呼吸を一回し、もう一度俺の顔を真剣な表情で見つめた。 「―――ずっと、中学校入学した時からいやその前から航太のことが好きです。航太がいなくなった7年間も航太のことを一回も想わなかった日はない」  なんて返事したらいいのか。  三坂が伝えた想いは本物だと分かる、冗談でこんなことを言うやつではない。  だから、俺も真剣に答えたい。  でも俺はもうこの世には存在しない者。  三坂はこれから何年、何十年とこの世で人生を送っていく者。  三坂には未来がある。  俺には未来はない。14歳のままで時は止まっている。 「―――もう7年。でもまだ7年。三坂はもしかしたらこれから先、俺より好きな人が出来るかもしれない。結婚もするかもしれない。だから――」 「――これから先、航太以上に好きになれるやつはいない。断定する」  俺の言葉を遮ってそう言い切った三坂。 「そんなの分んねーじゃん。未来のことなんて」  そう分かるわけがない。  今は俺のことが好きでも、いつかは俺より好きになる人が現れるかもしれないんだ。  死んだ俺のことなんて忘れるかもしれなんだ。  俺は未来の三坂、結婚して幸せな家庭を築いている三坂の姿を想像した。 「…泣くなよ。俺の告白迷惑だったよな。今更だし。それに航太は俺のこと友達とでしか思ってなかっただろ」  友達。そう三坂は友達。  でも、三坂の告白、嫌ではなかった。  ……むしろ嬉しかった…。  あれ、俺って三坂のこと友達以上の感情で好きなんじゃ…?  三坂の節くれだった指が優しく俺の涙を拭いている。 「………迷惑ではなかった…」  俺は俯いた。  迷惑ではなかった。でも三坂の気持ちには答えられない。  俺は死んだ人間なんだから。 「―――じゃあさ、約束する。俺がこっちでの人生を終え、航太のところへ行ったら、もう一度航太に想いを伝える。プロポーズする。あっちで一緒に楽しく暮らそう」  俯いていた俺の顔を両手で挟み、顔を上げさせた三坂。  三坂の綺麗な琥珀色の瞳が真っ直ぐ俺を見ている。  俺はゆっくり三坂に顔を近づけ―――三坂の唇に自分の唇をつけた。  そして――  ゆっくり唇を離し、「……待ってる」小さな声で呟いた。  そんな俺を瞬きもせずに凝視している三坂。  そんな姿が面白くて、思わず大きな声で笑ってしまった。  もしかしたら、三坂がまた想いを伝えに来てくれるかもしれない。  その時は、その時は笑顔で答えよう。  ―――遅いぞ。って。 「あぁーでも俺、三坂がこっちに来たときには、三坂のこと忘れてるかもな~」 「その時は、思い出してもらうように俺と航太の出会いから順番に話す」 「なんだそりゃ」  ……でも悪くないかもな。 「あっ、もうすぐあっち帰らないといけないかも」  神様がようやく俺の存在に気づいたらしい。  自分の手を見ていると、だんだん薄くなっている――。 「じゃあな。元気で」  俺はもう一度、三坂の顔を見ようと視線を上げた。  ――と同時に、今度は三坂の唇が俺の唇とくっついた。 「お返し」  ゆっくり離れた三坂の唇。  口角を上げ、意地悪そうに笑った三坂は俺の頭を撫でた。 「絶対、あっちでまた想い伝えるから。約束だ」 「あぁ」  ―――蒸し暑い夏の夜に俺達は約束をした。    夏の夜のプロミス

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