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第一章 着せ替え人形①
――翌日
マティアスは朝から成人の儀で着る衣装を選ぶ為、着せ替え人形にさせられていた。
「まあ! これ銀ギツネの毛皮じゃない!」
ハンナが毛皮のローブを持ち上げ白い毛並みを撫でながら言った。
「ああ、確かそれは先代国王が成人の儀でお召しになったものですな。その当時はまだ銀ギツネもそこら中におって……」
ハンナに答えるようにベレフォードが昔語りを始めてしまいマティアスは顔をしかめ大きく溜息をついた。
十二年前の『黒霧の厄災』以来、アルヴァンデール王国の財政は良いとは言えない状況にある。
マティアスの成人の儀だけの為に高額な衣装を誂えるのも他の貴族に示しがつかないし、だからと言って安物を作るのも王家の名に傷がつく。なので衣装は過去王族が着たものから選ぶことになった。
火焔石の採掘で莫大な富を得てきた王家には、金銀宝石はもちろん、珍しい動物の毛皮がふんだんに使われた衣装や宝飾品が山のようにある。ありすぎるがゆえに従者達は選べず、マティアスは飽き飽きし、心底うんざりしていた。
「ねえ、ウィルは? ウィルに選んで貰いたいって言ったじゃないか」
ハンナに毛皮を当てられながらマティアスはベレフォードに聞いた。
「伝えましたのでそのうち来るんじゃないですかね」
その場には沢山の人がいた。
ベレフォードとハンナ、司祭と副司祭。あとは顔は知っているけどよくわからない役人とか貴族とか。皆、成人の儀を取り仕切る関係者ではある。だがその中にウィルバートの姿が見えない。
本来なら一介の近衛兵が王子の衣装合わせに来る理由は無いのだが、長年ウィルバートはマティアスの世話を焼いていたので、必然的にマティアスの衣装選びはいつもウィルバートの姿があった。
初めの頃は側にいて見ているだけだったが、マティアスが意見を求めると予想外にしっくりくる提案をしてきて、徐々に周囲もウィルバートに衣装を選ばせるようになっていた。
その時、静かにウィルバートが部屋に入ってきて、司祭たちの後ろにそっと立った。
「ウィル! さっさと決めてくれ。もううんざりだ」
マティアスは目立たないようにして居るらしいウィルバートに大きく声をかけた。
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