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第一章 着せ替え人形②

「さてさて、これで如何かな」  ベレフォードがフワッと手で煽ぐとマティアスの衣装がパンッと変わった。  周囲から「おおっ!」と歓声が上がる。  赤と金でギラギラとした外套の上に、なんだかよくわからない動物の毛皮を着せられている。肩にずっしりとのしかかる衣装は初秋には暑苦しかった。 「良いんじゃないですか」 「ええ、豪華ですな」  取り囲む老人たちが称賛を口にする。  ウィルバートは何も言わずただ見ているだけだ。 「御髪(おぐし)は束ねないほうが良いのでは?」 「ああ、確かに。マティアス殿下はセラフィーナ様譲りの美しい金髪ですから、神々しさが出そうですな」  どこからもと無くそんな意見がでて、「ではでは」とベレフォードが指を弾くとマティアスの束ねられている髪が解かれ、豪華な衣装の上に広がった。 「おお! これは!」 「なんとお美しい……」  老人たちから低い歓声が上がる。すると、突然ウィルバートが前に出た。 「恐れながら、マティアス殿下はいずれ王となるお方。美しさよりも威厳を求めるべきかと」  そのままウィルバートはマティアスの前までカツカツと歩み出た。 「失礼します」  マティアスに小さく断りを入れるとその髪に触れ、慣れた手つきで一束に編み始めた。  頭皮に触れるウィルバートの指先が気持ちいい。昔はよくこうして髪を編んでもらっていた。四年ぶりの感触に胸の奥がむずむずとしてくる。  髪を編み終えると、床に所狭しと並べられた衣装を眺め、いくつか外套などを選んだ。そしてそれらをマティアスに着せていく。 「如何でしょうか。私はこれくらいの色合いでまとめた方が良いかと思うのですが」 「おお……」  老人たちからどよめきが起こる。  マティアスも鏡に映った自分の姿を見た。  白と金のみで纏められ、洗練された雰囲気の王子がそこにいた。 「さっきより全然いい……」  独り言のように小さく呟く。 「うむ。美しさの中に威厳がありますな」  ベレフォードが言った。  他の老人たちも頷いている。 「じゃあこれで決まりだな!」  マティアスは皆の気が変わらないうちにそう言った。 「そうですな。衣装はこれでいきましょう。あとはコロネットをどれにするか……」 「えー……」  コロネットは王以外の貴族が冠る小型の冠だ。  マティアスはゲンナリとして声を上げた。 「もう、母さまので良いよ。そうだよ! 母さまのが良い。そうしよう」 「セラフィーナ様のものはティアラ型ですので、マティアス様には不向きでございます。クラウス殿下かイーヴァリ王の物が宜しいですかね。どちらがお似合いになるか見てみましょう」  結局、試着が再開してしまい、マティアスは叔父であるクラウス殿下の物だと言うコロネットを頭に乗せられた。それを見てまた老人たちがあーだこーだと言い始める。ベレフォードがイーヴァリが王子だった時の物も持って来たが、正直どちらも同じに見えた。

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