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第一章 着せ替え人形③

 マティアスは早くこの場から逃れたくて窓の外を眺めた。モザイク調に嵌められた丸ガラスから青空が見える。 (いい天気だなぁ)  出掛けるには絶好の秋晴れだ。  ぼんやりとガラス越しの歪んだ空を見ていると、青い空を影が横切っていくのが見えた。 「あっ!」  マティアスは小さく声を上げて窓辺に駆け寄り、丸ガラスに頬を付けるようにして外を眺めた。  傾けられたマティアスの頭から宝石が散りばめられたクラウスのコロネットが転がり落ちる。 「で、殿下!」  ベレフォードが咎めるように声を荒げ、手をかざした。ベレフォードの術によりコロネットは床に叩き付けられる前にフワリと宙に浮ぶ。  マティアスはそんなベレフォードもコロネットも気にすることなく空を見つめた。 「飛竜の親子が飛んでる」  マティアスがそう言うとウィルバートも窓辺にやってきて同じように空を見上げた。 「ああ、野生の輝飛竜ですね。春に生まれた仔でしょう」 「小さいのが二匹いるな」  ウィルバートと二人窓の外を眺め、マティアスはふと思い立った。 「ウィル、外に見に行こう! ベレフォード、コロネットはそれで決まりだ。もう決めるものは無いな?」  マティアスは身に付けていた高級な衣装をバサバサと脱ぎ始めた。 「ああ、殿下! もっと丁寧に……!」  ハンナが慌てて衣装を受け取る。  そんなことはお構い無しにマティアスはウィルバートに言った。 「十五分後、北の門で落ち合おう。レオンを連れてきてくれ」  ウィルバートはそう言われ、少し困ったようにベレフォードを見た。そしてマティアスの現教育係であるベレフォードは口を開く。 「マティアス殿下、この大事な時期に城の外に出られるのはあまり感心できませんな」 「果樹園の辺りを散歩してくるだけだ。城の中と変わらんだろう。それに……成人したら陛下が公務に連れて行くって言ってたんだ。今みたいな自由な時間はもうこれが最後かもしれない……」  マティアスはそう言いながら、少し悲しそうな表情をして淋しさを演出してみた。その効果はてきめんだった。 「……あまり、遠くに行ってはいけませんよ」  マティアスは心の中で『やった!』と思った。  そしてウィルバートに言った。 「じゃあウィル、後でな!」  ウィルバートは少し困ったように笑いながら「承知しました」と言った。

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