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第一章 赤りんご①

「いらん。帰れ」  北門に着いてすぐにマティアスはそう言い放った。 「ですが、警護に私一人では心許無いので……」  三人の兵を従えたウィルバートがそう言い、マティアスは腕を組みウィルバートを睨んだ。 「ぞろぞろ引き連れて出歩くのは嫌いだと知っているだろう?」 「好き嫌いの問題ではありません」 「四年前は二人でよく出てたじゃないか。別にここらの状況は変わってないぞ。むしろ私も剣術で鍛えているから何かあれば対抗できる。まあ、お前にはすぐに負けたけど……」  マティアスはそう言って腰に備えた剣を握って見せた。 「しかし、成人の儀の前の大事な時期です」  マティアスはウィルバートと気さくに二人で出掛けたいのだ。追加された三人の兵士はなんとか置いていきたい。マティアスは思案しながら言った。 「護衛をぞろぞろ連れて行くと、民が萎縮して話かけてくれない。気さくに会話できるのは王子である今だけなんだ」  マティアスはウィルバートの目を真っ直ぐに見て言った。言っている事は本心だ。  ……かなり誇張はしているが。  ウィルバートは少し迷いながらも「わかりました」と言い、兵士三人を帰した。 「よし! じゃあ行くぞ」  マティアスはそう言うとレオンに跨り北門を出た。ウィルバートもそれに続く。  飛竜を見ると言って出てきたが、もう見える範囲には飛んでいなかった。しかしそれは単なる口実なので見えなくても外出をやめる気はない。  城の正門は南に面し、城下町が広がっているが、北門からは堀を渡り少し進むとりんご畑が広がっている。畑ではポツポツと農作業をしている人々の姿が見えた。 「おお、これはマティアス様」  畑にいた年配の農夫がマティアスを見て声を掛けてきた。 「精が出るな。もう収穫か?」 「採れ始めですな。本格的な収穫はあとひと月先ですわ」 「そうか。楽しみだな」  軽く会話をしつつその場を通り過ぎる。農夫は手を振って見送ってくれた。  ポクポクと馬で歩み、街道を進むと道の先で貴族のものらしき馬車が停まっているのが目に止まった。 「どうしたのでしょうか」 「あの馬車は……、クレモラ公爵かな」  金の装飾が施された派手な馬車の横にクレモラ公爵本人と従者らしき人物、その正面には子供が二人おり、何やら揉めているようだった。

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