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第一章 自惚れ③

(ウィルが、女も男も買っている!?)  娼館と言う場所がある事はわかっている。兵士たちが行っているのも知っている。でもウィルバートは行っていないと思っていた。  この三週間弱で二回ウィルバートに抱かれた。あの熱く濃厚な抱擁をこれまでにも受けた者がいる。その事実にマティアスは打ちのめされた。  気がつけば目から大粒の涙がボタボタと零れていた。 「マティアス殿下……」  アーロンは立ち上がるとマティアスの横まで歩み出てると、マティアスを再び座らせ、ハンカチでその涙を拭った。 「ウィルは、私を……愛してないと言うことなのか……っ」   嗚咽をこらえながらアーロンに尋ねた。確かにウィルバートの口から「愛してる」とは言われたことが無い。 「それは、私の口からはなんとも……」  アーロンが煮えきらない返事をしたその時、部屋の扉を誰かがノックした。 「隊長、いらっしゃいますか」  その訪問者は返事を待たずに扉を開けた。 「これ、勝手に開けるなよ。ウィルバート」  軽く咎めるアーロンだが、ウィルバートは別のことに気を取られたようで驚いたように言った。 「マティアス様……どうしてここに」 「殿下とちょっと話していたのだけどね。泣かせてしまったよ」  アーロンが苦笑いを浮かべると、ウィルバートの眉間に深いシワが刻まれた。 「お一人で兵舎になど、いらっしゃらないでくださいっ」  ウィルバートが咎めてくる。マティアスはそれを無視して立ち上がり、まだ涙が止まらない瞳をウィルバートに向けた。 「しょ、娼館で女や男を買った事があると言うのは本当かっ?」  突然の詰問にウィルバートは驚いた様子でマティアスを見て、それからアーロンに言った。 「何の話をしていたのですか?」 「あは、すまんな」 「ウィル! 答えろっ!」  怒鳴るマティアスから目を逸らし、ウィルバートは困ったような顔をし答えた。 「まあ、私もいい歳なのでそれなりには……」  当然のように言われ、マティアスはさらに落雷に打たれたような衝撃を感じた。意思とは関係なく涙がボロボロ落ちてくる。 「う、ウィルは、愛してない者でも抱けるのだな……」 「マティアス様……」 「わ、私も同じか? その娼館の女や男と、同じ、なのか……?」  ウィルバートが押し黙った。  マティアスが欲している否定の言葉は出てこない。 「私の気持ちを受け入れないのも、騎士にならないと言うのも、私を、私を愛してないからなのか?」 「……っ」  ウィルバートは何か言おうとしてそのまま何かを飲み込んだ。 (……ああ、そうなのか)  マティアスはウィルバートの無言の理由を肯定と受け取った。 「私にとって、ウィル、お前が全てだった。でも、お前は違ったのだな……」  マティアスはそう言い残してその場を後にした。

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