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第一章 自惚れ②
「殿下?」
「な、なんで! ウィルは私の騎士になりたくないのか?!」
マティアスは声を張り上げた。
アーロンは困ったように返してくる。
「貴方を汚した己が許せないのでしょう」
「い、意味がわからない! だって、だってさ、ただ、愛し合っただけだ。好きな者同士、愛し合って何がいけないのだ!?」
その発言に、アーロンは少し驚いたようにマティアスを見つめる。
「ウィルバートは……殿下をお慕いしていると言ってきたのですか?」
「え……」
「ウィルバートは殿下を愛していると言葉で言ったことがありますか?」
アーロンは純粋に確認しているだけのようだった。マティアスは記憶を巡らせたが、その言葉をもらった覚えは無い。
「い、言われてないが、でも! その……ウィルは私に興奮してた! つ、つまりそう言うことだろう!?」
マティアスが妖術で性的興奮状態に陥った二回とも、ウィルバートはマティアスを抱いてくれた。熱い視線や堅く膨張した下半身のソレ等を思うと、どう考えても自分を欲してくれていたとマティアスは感じた。
マティアスの言葉を聞いてアーロンはやや困ったように眉尻を下げた。
「殿下……。男と言うのはある程度見目の良い相手ならば、愛して無くとも抱けます。現に私はマティアス殿下を大切には思っておりますが、愛欲的な感情は持っておりません。それでもあの時のウィルバートの代わりを務めようと思えば可能でした。ま、脱出路に逃げ込まれるほど嫌がられるとは思ってなかったので、流石に落ち込みましたがね……」
「あ、あれは、アーロンだからというわけじゃなくて、ウィル以外は絶対に嫌だったと言うことで……」
「ええ、わかっておりますよ」
「でも! アーロンはそうであっても、ウィルは違うだろう?!」
「何故そう思うのです?」
マティアスは記憶を巡らせた。遠い日の記憶だが鮮明に覚えている。アーロンに話すか迷うが答えが知りたくて話すことにした。
「私が十歳くらいの頃だ。男女の営みについて教えられた。どうやって子供ができるかだ。そ、それでその方法を知った時、あまりに滑稽で無様なやり方だと思ったんだ。それをウィルに話したら、『愛し合っているからこそお互いに醜い場所でも愛し合えるんですよ』ってウィルは言ってて……!」
マティアスの説明にアーロンは考え込み「なるほど」と呟いた。
「十歳の頃のお話を十八歳になる今まで信じておられたのですね……。我々は少し殿下を大事に育て過ぎたのかもしれません」
「ば、馬鹿にしているのか!?」
「いえいえ、とんでもございません。ウィルバートはその時嘘を付くつもりは無かったのでしょうが、十歳の殿下に男の汚い部分を話すことは出来なかったのでしょう」
「じゃあ、ウィルもアーロンや他の男と同じように愛がなくても抱くことが出来ると言うのか!?」
「殿下はウィルバートを品行方正な人間だと思っておられますが、彼もただの男です。娼館で女も男も買っていますよ」
マティアスは冷水を浴びせられたような気がした。『女も男も買っています』と言葉が頭にこだまする。
「う、嘘だっ!」
マティアスは声を張り上げ、立ち上がった。
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