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第一章 自惚れ①
それから数日、依然としてウィルバートはマティアスに顔を見せてはくれなかった。
マティアスは本能の赴くままウィルバートに迫ってしまったあの下品な行いを悔やんだ。流石に幻滅されたのかもしれない。
しかし初めての時はウィルバートはマティアスの男性器を口に含みマティアスが出したものを飲み込んでいた。なぜ立場が逆転するとそれが許されないのか理解できない。
さらに騎士になる件はどう思っているのかと、縁談がどうなったのかも気になっていた。
マティアスの誕生日まであと十日となったある日の夕方、マティアスは自ら兵舎へと赴いた。
ウィルバートの部屋をノックするが返事は無くそっと扉を開けてみた。殺風景な室内にウィルバートの姿は無かった。
遠征帰りで物が必要最低限しかない部屋。出でいこうと思えばすぐに出て行けそうだ。マティアスはゾッとして自身の肩を抱いた。
「マティアス殿下?」
呼ばれて振り向くとそこにはアーロンがいた。
「アーロン……。ウィルはいないのか」
「今日は殿下の成人の儀で使う兵たちの装備の最終確認をしております。もうすぐ終わると思いますよ。よろしければ私の部屋で待ちますか?」
出直そうかとも思ったが、どこかで待たないと会えない気がした。
「ああ、そうさせてもらうよ」
そう言ってマティアスはアーロンの部屋へとついて行った。
アーロンの部屋はウィルバートの部屋の近くで、少し広めだった。家具やカーテンなど、ウィルバートの部屋と比べると格段に華やかな印象だ。
マティアスは革張りのソファに腰を下ろし、思い切ってアーロンに聞いてみた。
「アーロン、あのさ、ウィルの縁談てどうなったか知ってるか?」
アーロンはお茶を淹れながら、チラリとマティアスを見て「んー、そうですね」と困ったように言った。
「何か知ってるのか?」
「私の口からお話しても良いのやら……」
「かまわん。教えろ」
マティアスが命令するように言うと、アーロンはマティアスにお茶差し出し、向かいのソファに座った。
「お断り、したようですよ」
アーロンの言葉にマティアスは歓喜した。ウィルバートは断ってくれたのだと。
しかし、
「騎士になるか不確定になったので、年頃のお嬢様に不確定のままお待ち頂くのは良くないからとの理由です。あの日はそれだけ伝えて早々に帰ってきたそうですよ」
アーロンの言葉にマティアスは固まった。
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