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第一章 誕生日前夜①
落ち込んでも無気力でも時間は進む。
城で働く者たちはマティアスの成人の儀に向けて予定通りに準備を進めていき、とうとう成人の儀の前日となった。
マティアスはただ言われるがままに、だだ儀式の一部品のように指示に従っていた。いつもの愚痴や文句もなくただ素直に従うその様に、ある者は「殿下は成人王族としての自覚をお持ちになられた」と褒めたが。
「マティアス殿下。いよいよ明日ですね」
礼拝堂で儀式の最終確認を終えた時、アーロンが話しかけてきた。
「そうだな」
マティアスは何の感情も籠もっていない声色で答えた。
「緊張しておいでですか?」
「そうでもないよ」
「左様でごさいますか。明日は訪問客もおおいですが警護は万全を期しておりますのでご安心を」
「ああ。頼むよ」
マティアスは会話をさっさと終わらせてその場から立ち去ろうとした。
「殿下」
アーロンが呼び止めてきた。
マティアスが振り返るとアーロンはいつになく真剣な顔で話し始めた。
「……先日の件、申し訳ございませんでした。もっと他に言い方は無かったのかと、後悔しております」
マティアスは視線を逸らしたまま言った、
「謝ることでは無い。言い方を変えた所で事実は変わらないのだから」
「ですが……ハンナが『殿下の元気がない』と心配しておりました。お食事もあまり取られてないそうですね。夜は眠れていらっしゃいますか?」
アーロンの質問にマティアスは鼻で笑った。
「子供のような浮かれていた己が恥ずかしくっなっただけだ。自己管理はきちんとしているつもりだから大丈夫だ」
マティアスはそう言うとアーロンに背を向け今度そこその場から立ち去った。アーロンの視線を感じたが振り返らなかった。
(皆、儀式に穴を開けられたく無いんだろうな)
今やマティアスは自分が完全に駒だと思っていた。
礼拝堂の出入り口まで来た時、扉のすぐ横にウィルバートがいた。
目が合うとウィルバートは兵士の礼儀に則ったお辞儀をしたが、マティアスはまるで目に入っていないかのようにその横を通り過ぎた。
いつも一兵士にしているのと変らない態度を心掛たつもりだった。
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