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第一章 誕生日前夜②
マティアスはその日の予定を全て終え、早めの夕食と入浴を済ませ、ハンナには早く休むように言われ寝室に入った。
しかし眠くもないのに寝台へ上がっても嫌なことばかり浮かび寝付けるはずも無く、マティアスは机で本を読みながら眠気を待った。
しばらくすると寝室の扉がノックされ、同時に「ベレフォードでごさいます」と名乗る声がした。マティアスが入室を許可すると、ベレフォードがいそいそと入ってきた。そしてその後に付いてきた者にマティアスは驚いた。
「陛下よりご命令です。明日は賓客も多く何か粗相があっては許されません。それ故、今宵は二人で過ごし、明日は先日のようなことは起こらないように……とのことでごさいます」
ベレフォードの後ろについてきたウィルバートは寝間着姿だった。湯浴みを済ませて来たのだろう。
マティアスは「ハッ」と鼻で笑った。
「実の孫に言うことか」
「陛下はご心配されているのです。殿下が大衆の前で醜態を晒すようなこと、絶対に避けなければなりませんので」
ベレフォードはそう言うと出入り口に向かった。
「ああ、あまり明日に響くような、その……激しいのは駄目ですぞ」
ベレフォードはそう言い残すと部屋を出て行った。
マティアスとウィルバートは二人、部屋に残され沈黙した。
(どうしろと言うんだ……)
先日喧嘩別れしてからウィルバートと言葉を交わしていない。前のように親しく話すことも、妖術にかけられた時のように本能に赴くままに甘えることもできない。
固まるマティアスに対し、先に口を開いたのはウィルバートだった。
「マティアス様、私は部屋の端で待機しておりますので、どうぞお休みください」
その言葉に胸がジリッと焼け焦げるように痛んだ。
「陛下の命に背くのか? いつもはどんな事でも従ってるくせに」
マティアスは少し鼻で笑いながら嫌味を込めた言葉を投げつけた。
「正気なのにこれ以上辱めを受ける必要もありませんよ」
ウィルバートは溜め息まじりで目も合わせずそう言う。
もちろん『辱め』だなんてマティアスは思っていない。しかしウィルバートはマティアスを『辱めている』と思っているのだろう。むしろ信頼し仕えるつもりだった未来の王が、女のように脚を開き交わることを欲しているのだから、屈辱だと感じているのはウィルバートの方なのかもしれない。
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