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第一章 誕生日前夜③
もはや昔のような関係にはどうあがいても戻れない。ウィルバートと身体を繋げたことも無かったことにはしたくないし、出来ないのだ。
(ウィルを愛してる。もう消せるような気持ちじゃない。それなら……)
「ウィル、来い」
マティアスはウィルバートを見て言った。
「……マティアス様」
マティアスの言葉にウィルバートは眉間を寄せ苦しげにその名を呼ぶ。そんなに嫌なのかと思うと胸の奥を握り締められているような苦しさが湧いてきた。
もはや愛されてもいないし、もう嫌われているとすら思えてくる。ここまで来たら軽蔑されても同じだ。
マティアスは棒立ちで固まるウィルバートに近付くとその胸ぐらをつかみ寝台へと引っ張って行った。そして仕方なさそうにそのまま付いてきたウィルバートを寝台へ押し倒そうとした。しかし屈強なその身体はマティアスに押されたくらいではびくともしない。
「んんっ!」
ベッド脇に立つウィルバートの胸を力いっぱい押す。色気も何もあったものでは無い。
「ど、どうすればその気になる?! 娼婦達はお前をどう悦ばせるんだ! ど、どんな娘が好みなんだ!? 女と男、どっちが、好きなんだ!?」
ウィルバートの胸にしがみつき、俯き震える声で質問攻めにした。堪えられず涙が溢れてきた。
「マティアス様……」
ウィルバートは観念したように寝台の端に腰掛け、マティアスを抱き寄せた。
「泣かないでください。明日腫れた目で皆の前に出ることになってしまいます」
そう言ってマティアスの頰を拭う。
やっぱり明日の事、王国の事、王子であるマティアスの事が最優先だと言われている気がして悲しみが増す。しかしその手のひらの優しい感触が愛おしかった。
「ウィル……」
その手のひらに頰擦りするように顔を寄せた。
目を開けウィルバートを見る。ウィルバートの漆黒の瞳に自分が映っているのがわかった。ウィルバートには自分はどう見えているのだろうか。滑稽で盛り付いた醜い馬鹿な王子なのだろうか。
不安で押し潰されそうになっていると、ウィルバートがマティアスに唇を寄せてきた。柔らかな感触が唇に触れる。妖術による酩酊状態ではない通常の状態でするキスは感触がより鮮明だった。
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