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第二章 フォルシュランド①

「おはようカイ。フォルシュランドでの最後の朝帰りかい?」  家に着くと既に起きてダイニングで書類を見ていたヨエルがニヤニヤしてこちらに視線を向けてくる。 「出発前に挨拶くらいは、と思ってさ」 「でも、ヤルことヤッてきたんだろ?」 「当然だろ? あそこに行って何もしないなんてむしろ失礼だ」 「アハハ、そりゃそうだ」  二人で笑いながら話していると、ダイニングテーブルにガンッ! とパンの乗った皿が置かれた。 「兄さんもカイも、朝からやめて」  ニーナは二人を睨んで再び台所へと戻って行く。 「ごめんごめん、十九歳の妹の前でする話じゃ無かったな」  ヨエルがニーナの背中にそう言葉を投げるもニーナはそのまま無視して行ってしまった。 「年齢、関係あるか?」  カイは女性のいる場でする話では無かったと反省しつつ、笑いながらヨエルに言った。 「ま、あいつ、お前のこと諦めて無いみたいだしな」 「何が良いんだか」 「お前、他人事みたいに言うなよ。人の妹誑かしておいて」 「俺はニーナに何もしてないぞ」 「なんだよ、人の妹を全然タイプじゃないみたいに言いやがって」 「いやいや、あんな若くてしかもこんな大店のお嬢さん、俺には勿体なすぎるって話だよ」  男二人でまた下世話な話をしているとニーナがミルクやサラダ等が乗った盆を持って戻ってきて、二人は慌てて口を噤んだ。 「私も兄さんたちと一緒に行くから」  突然ニーナがそう言った。 「は?」  二人同時に聞く。 「だから、私もアルヴァンデール王国についてく。アルト兄さんにはもう許可を貰ったわ。荷物も鞄一つに纏める」  カイとヨエルは絶句した。  出発を明後日控えて、この娘は何を言い出すのか……。 「だ、駄目だっ! 向こうでちゃんと経営していけるか分からないんだっ! 女なんて連れて行けない!」 「でも! 男二人で家事はどうするの? メイドを雇えるかもわからないのに!」 「そんなの、自分たちでやるつもりだ!」 「でもそれじゃあ店に集中出来ないじゃない! その点私なら忙しい時はお針子仕事も手伝えるわ!」  突然始まった兄妹喧嘩をカイは端から眺めていた。ニーナが一緒に来ること自体は嫌ではないし、むしろニーナが言う通り来てもらったら助かる部分もあると思うのだが。 「ニーナ、ちょっと二人で話せるかな」  カイはニーナに声をかけた。ニーナは頬を赤く染めて頷いた。

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