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第三章 絶望の淵で①
第三章 やがて光りの王となり
暗い森は嫌いだ。獣に襲われた記憶が蘇るから。
カイは過去に森で狼に追いかけ回されたことを思い出した。
あの時は必死に逃げたが三頭で回り込まれ、太腿に噛みつかれた。肉を食いちぎられる痛みと恐怖は今でも鮮明に思い出せる。
噛まれながらも太い木の棒で必死に応戦し、一頭を殴り殺したらもう二頭は逃げていった。
噛まれた腿からは大量に血が流れた。脚を引きずりなんとか寝床にしていた洞窟に戻ったが、意識は朦朧とし、数日間高熱にうなされ、このまま死ぬのだろうと思った。しかししばらくして意識が回復すると体調も良くなっていた。さらに数日後には傷もほとんど残らなかった。カイは自身の生命力に驚いた。
人が生きるか死ぬかは紙一重だと感じる。
どんな大怪我でも生き残る者はいるし、ちょっと頭を打っただけで死んでしまう者もいる。
カイはそんなことを思いながらマティアスを背負い懸命に暗い森を進んでいた。
森に道はなく、堆積した落ち葉に足をとられ、思うように前に進めない。マティアスを背負っていることで下れない崖や段差などもあった。
そうこうしているうちに陽はあっという間に沈み、辺りが暗闇に飲まれようとしていた頃、やっと林道に出た。
「あと少しだからなっ! 頑張れよ!」
カイは背中のマティアスに砕けた口調で声をかける。
もはやマティアスの運命はカイが握っている。
二人とも生きるか死ぬかのこの状況に於いて、王だとか仕立て屋だとかの身分差はどうでも良いと思えた。その上、カイはマティアスに過去の男の名で呼ばれてからもう敬ってやるものかと半ばやけくそ状態になっていた。
そしてこの窮地に於いてもう一つの懸念があった。
輝飛竜がバルヴィア山の方向、つまり北へと飛んだ状況から考えるに、ここはおそらくアルヴァンデール王国ではなく、バルテルニア王国の可能性が高い。
そしてアルヴァンデール王国とバルテルニア王国は敵対している。
そこにアルヴァンデールの国王が侵入しているのだ。それをこちらの国民に知られたらその時点でマティアスの命はない。
カイは策を練りつつ集落へと続く林道を歩いた。
はぁはぁと呼吸を乱し急ぐ。
十月の北国。日が沈み気温が下がり濡れた服が体温を奪うが、人一人を背負い歩き続けるカイの身体は熱かった。特にマティアスと接している背中が熱い。
やがて辺りが真っ暗になり、林道でも道がよく分からなくなってきた頃、民家の灯りが見えた。
「家だ! 着いたぞ!」
カイはマティアスにそう声をかけ、林道からの一番い丸太小屋の民家に向かった。
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