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第三章 決意④

 どうやらこの魔術師は輝飛竜が暴れた理由や、それにルーカスもといマリアンナが関わっていることも知っているらしい。 「き、傷を治しても国に辿り着けるのは数か月先だっ!」  マティアスが悔しそうに吐き捨てる。だがふと思い立ったように魔術師を見た。 「お前、ひょっとして空間を移動出来るのか? な、なら私達を……!」 「無理だ。そんなデカいもの運べん。それに身一つでの移動ならお前だって出来るだろう」 「え?」 「妖精共に運んでもらったことがあるはずだ」 「た、確かに一度その現象は体験したことがあるが、それは城の中を移動しただけで……」 「距離は関係無い。まあ、今のお前には無理だろうなぁ。お前の中に少しでもここに留まりたいという思いがあれば、小さき者達はそれを叶えない」  カイは腕の中でマティアスが言葉を詰まらせるのを感じた。  カイは当然だと思った。自分を殺そうとした者がいる場所に帰りたいと思う者がいるわけがない。だが責任感から帰らねばと思っていることは確かだと感じる。  マティアスは苦しげに顔を歪ませていたがふと思い立ったように魔術師を見上げた。 「手紙、手紙をマリアンナに届けてくれないか」  魔術師が意外そうにマティアスを見て、そしてニヤリと嫌らしい嗤いを浮かべた。 「確かに紙切れくらいなら運べるな。で、何を対価にする?」  魔術師の質問にマティアスは力強い目できっぱりと答えた。 「対価は無い。これはお願いだ。何かお礼はしよう」 「『お礼』とは?」 「それはこれから考える」 「その『お礼』が見合わなかったらどうするのじゃ?」 「お礼はお礼だ。見合わなくてもそれまでだ。善意に見返りを求めてはいけない。そういうものだ」 「なんだそれは。それではわしが損をするかもしれないじゃないか」 「そうだ。損をするかもしれないし、逆に得をしたとも思うかもしれない。私達はそうやって助け合って生きてる」  その言葉に魔術師はきょとんとマティアスを見て固まった。そして「アハハハ」と大笑いし始めた。 「な、なんで……っ、このわしが、なんの見返りも無しに……、お前の指示に従わねばならんのだっ」  魔術師は腹を抱え息も絶え絶えに笑う。たがマティアスはさらに続けた。 「お前は対価無しで人の願いを聞いたことが無いのだろう? 暇つぶしにやってみたらいいじゃないか。……八年前、暇つぶしで私達に悪戯したのと変わらんだろう」  マティアスの意味深な発言に魔術師は笑いを納めてマティアスを見た。

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