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第三章 決意③
マティアスは再び魔術師を見るとドカドカと魔術師の前まで歩み出て、その頬を鷲掴みにし叫んだ。
「お前っ! なんでこんな所にっ!」
先程の丁寧な礼とは打って変わり乱暴に怒鳴るマティアスにカイは驚いた。そもそもマティアスがこんなに雑に人を扱うなんてこれまでの言動からは考えられない。
「お、おいっ!」
カイは戸惑いながらもマティアスを止めようとした。しかし魔術師はマティアスに掴まれたその美貌を歪ませニヤリと嗤い、次の瞬間、マティアスの前からフッ姿を消した。
「えっ!」
「はっ?!」
二人で辺りを見回す。するとカイは左半身に微かな風を感じた。
「で、治癒魔法を受けるのか? 受けないのか?」
「なっ!」
いつの間にか魔術師はカイの横に立ち、カイの肩に腕を回していた。
「なんならこの男も入れて三人で楽しんでも良いぞ。わしはお前よりこっちの方が好みじゃ」
魔術師はそう言ってカイの肩に頭を乗せてくる。なんだか先程までと話し方も違う。
「ウィルに触るなっ!」
マティアスは物凄い剣幕でカイの側に戻ってくると魔術師から引き剥がすようにカイの腕を掴み抱き寄せた。そしてカイを背中に隠すように魔術師との間に立ち、魔術師を睨んでいる。
自分より背が高いカイを必死に隠そうとしているマティアス。毛を逆立てて怒る猫の様でカイは頬が緩みそうになるのを必死で堪えた。
「正体がお前だと分かれば、当然治癒なんて受けないっ! お前にはもう何も取り込ませないっ!」
「なんだ、つまらんのぉ」
魔術師は眉を下げて肩をすくめた。
「な、なあ、知り合い……なのか?」
二人を見ていたカイは当然の疑問を口にした。マティアスのこんな乱暴な言動も意外過ぎる。しかも何となく二人は似ている気もした。
「ひょっとして、兄弟とか?」
「誰がっ!」
何となく言ってしまったカイをマティアスは思いっきり睨んできた。
「こいつは姿を変えているっ! 二年前に会った時と見た目が全然違う!」
「あはは! なかなか良いだろう? そなたを参考にしてみたのだ」
魔術師はそう言って金髪を掻き上げながらその場でくるりと回った。姿を変えられる魔術があるなんてカイには信じられなかった。
「悪趣味なっ!」
マティアスは魔術師にそう吐き捨てるとヨロヨロとその場に膝をついた。
「お、おいっ!」
カイも慌ててしゃがみ、マティアスを見るとふーふーと荒く呼吸をしている。熱が上がっているようだ。カイはマティアスの肩を抱き自身に寄りかからせた。
「さっさと治して、国へ戻った方が良いのではないか? お前が可愛がっているあの赤毛の娘、罪の意識で今にも自死しそうだぞ」
その嫌味な言葉にマティアスが頭を上げ魔術師を睨んだ。
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