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第三章 決意②
「お待ちしておりました。さあどうぞ」
領主宅の執事がそう出迎え、カイとマティアスは顔を見合わせた。今日来ることを知っていたような言い方に薄気味悪さを感じつつ、二人は二階奥の部屋へと案内された。
執事が扉をノックし、「お二人をお連れしました」と言うと中から「どうぞ」と声がした。執事は扉を開け二人を中へと促すとそのままお辞儀をし立ち去った。
広いが何もない部屋。大きな窓を背にし、ポツンと置かれた革張りの一人掛けのソファに男は座っていた。外からの光を背負い顔はよく見えない。
「先日、治癒していただきましたレオンと申します。命を助けていただきありがとうございました」
マティアスが魔術師に向かい丁寧に礼を述べる。
「起き上がれるようになったようだね。まだ体調は悪そうだが」
逆光でも魔術師がニヤリと嗤うのがわかった。
「その男から完治の方法を聞いて来たのだろう? さあ、どうする?」
早速本題に入る魔術師にカイは苛立ち、無意識に魔術師を睨んだ。
「少しお聞きしたいのですが」
マティアスが尋ねると魔術師は「どうぞ」と手を差し出し質問を促してきた。
「治癒魔法が使えるということは、貴殿はこの国の王家や貴族に仕えてらっしゃるのですか」
「私は誰の下にもつかないよ」
マティアスの質問に魔術師はサラリと答える。
その質問でカイは気付いた。マティアスが治癒魔法を受けるかどうか魔術師に会って決めると言ったのは、もしこの者がバルテルニア王家と関わりがあり、マティアスがアルヴァンデールの王だとバレた場合、抱かれたことが弱みになる可能性を考えて、では無いだろうか。
カイはマティアスが好みで決めるのではないかと低次元なことを考えていた己が恥ずかしくなった。
「そうですか……。身体を繋ぐ治癒というのはどこの系統の魔術なのですか?」
「系統? んー、私の独自かなぁ」
「独自!? 独学で骨を接ぐほどの魔術を!?」
マティアスが驚き声を上げた。
魔術の知識が全くないカイにはよく分からない話で、ただマティアスの横で黙って聞いているしかない。
「しかし……身体を繋いで治癒をする原理がよく分からないのです」
「なに、簡単な理だよ。ヒトの仔から溢れる生気を取り込み傷へと流すだけだ」
「よ、妖精を介さないのですか……?」
「そなたはその小さいのに好かれておるな。うざったく無いのか? 常に視界を飛んでおるだろう」
カイはマティアスが妖精にビーズを拾わせていた光景を思い出した。金色の光に包まれ実に美しかった。しかしこの魔術師が治癒で見せた魔術は炎だった。つまり二人は系統が全く違うらしい。
「レオン、こちらの方がレオンを治療した時、紫っぽい炎が出たんだ。傷口が燃えるように」
カイは何となく一情報としてマティアスにそれを伝えた。しかしマティアスはカイのその言葉を聞くとバッとカイの方を向いた。
「赤紫の炎?!」
「あ、ああ。そうだ」
マティアスの剣幕にカイは驚きつつ返事をした。
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