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第三章 決意⑥
熱が上がってしまったマティアスを馬車の荷台に寝かせ、カイは帰路を急いだ。
「すまない。結局この村に足止めすることになった……」
毛布にくるまりながらマティアスが申し訳なさそうに呟く。
「いいじゃないか。手紙にも書いた通り休暇だと思えよ」
「そう……だな……」
カイの言葉にマティアスが小さく返事をする。
国王としては一刻も早く帰らねばという思いがあることは確かだと感じる。だがもう足掻いても仕方ないのだ。
怪我を負ったままなのは可哀想だとは思うが、マティアスが魔術師に抱かれるという判断をしなかったことにカイは密かに安堵していた。そしてこれから長い期間、一緒にいられることへの喜びも。
「冬をどこで越すかだな。ハラルドさんに相談してみよう。あのままあの家で厄介になるのは流石に無理かもしれない」
現状はリビングと言うか玄関先に藁を積んで寝ている状態だ。流石に邪魔になる。
どこか居候できそうな家を紹介してもらうか、それが駄目なら街に出て宿を探すか、住み込みで働かせてもらうか……。負傷しているマティアスを働かせるわけにいかないし、王様がそもそも働けるのかも疑問だ。黒真珠のボタンを資金源に果たしてやっていけるだろうか。いや、なんとかするしかないのだ。
「そう言えば、魔術師へのお礼はどうする?」
カイはふと思い立ちマティアスに尋ねた。
「うーん、どうしようかなぁ……」
「治療してもらった時に治療費の話をしたらカネはいらないって言ってたから、カネと高価なものは必要としてないようだな」
「そうだな。そういう物欲的な感情は持ってないと思う」
「そもそもあの人とはどういう関係なんだ?」
「関係……腐れ縁、かな?」
腐れ縁。かなりざっくりした答で答えになっていないように感じる。一国の王に腐れ縁などあるのだろうか。
「あの人、ずっとレオンをつけているのか?」
「私よりどっちかと言うと……まあ、少々事情が複雑なのだ……」
マティアスはそう説明を避けようにカイは感じた。
「名はなんて言うんだ?」
「名は……そのまま呼ぶことは出来ない」
「はぁ? それは本名なのか?」
「アレが名乗ったのが本名だとすれば……」
「なんだそりゃ……」
カイは不審に思いながらもそれ以上は追求してはいけない気がした。
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