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第三章 森の家①
エクルンド家に着き、カイとマティアスは完治はできなかったとハラルドとヘルガに説明した。するとハラルドが二人から相談される前に切り出した。
「使ってない家があるからそこを使え。うちの裏から少し行った所にある」
「えっ! 良いんですか?」
カイが驚き聞き返した。
「いいのよ。もしあなた達がしばらくこの村に残ることになったらあの家を貸そうって、ハラルドと話てたのよ。ずっと使ってないけど、時々風を通して掃除もしてたから使えるわ」
ヘルガは実に嬉しそうにニコニコしている。
「助かります!」
「ありがとうございます!」
感激した二人の声が揃う。
「冬を越すには家だけじゃダメだ。薪や食料も蓄えなきゃならん。早けりゃあとひと月で雪が降る。ウィル、あんたは必死に働かにゃならんよ」
「はいっ! ハラルドさん、ぜひご指導お願いします」
カイがそうお願いするとハラルドはしっかり頷いた。
「わ、私も働きますっ!」
カイにつられるようにマティアスも声を上げる。
「お前さんはまず怪我を治すことだ。とにかく安静にしてなさい。悪化させたらかえってウィルの手間が増えるだけだぞ」
カイが嗜める前にハラルドがマティアスに言った。マティアスはしゅん……としながらも「わかりました」と呟いた。
翌日、カイとマティアスはハラルドの案内で、早速その家に案内してもらった。
「わぁ、立派ですね」
家はエクルンド家とほぼ同じ造りの丸太小屋で、地面から五段ほど階段を登った位置に床があり、一階はリビングと台所。二階は言わば屋根裏部屋で主寝室が一つと小さな部屋がもう一つあった。
台所の棚には少ないながら食器が置かれ、主寝室には質素ながらベッドが二つある。新しさは無いが使い古された感じもない。これほどしっかりと整えられた家に誰も住んでいないことにカイは違和感を感じた。客人用に家を持つほどこの夫婦が裕福だとも思えない。
「この家には誰か住んでいたのですか?」
聞いてはいけない気もしたが、カイはやはり気になり聞いてみた。マティアスと共にここで暮らすなら不審な要素は取り除きたい。
ハラルドはリビングの小さな窓を開け風を通すと小さな椅子に腰を下ろし一呼吸し、口を開いた。
「ここはな、うちの息子が嫁さんと住むために建てたんだ」
普段口調がキツいハラルドが穏やかに話す。
「だが、嫁さんが来る直前に息子が戦に出ることになってな。そのまま戻らんかった……。もう二十年、経つかな。だから今まで誰も使っておらん」
「その……戦って……」
マティアスが胸を押さえながらハラルドに尋ねた。
「ああ、アルヴァンデールとだよ」
予想通りの答えにマティアスは硬直した。
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