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第三章 森の家⑥

 荷物を持って家の中に入り、玄関扉締めてからカイは溜め息まじりにマティアスに言った。 「知らない人が訪ねてきても、簡単に玄関は開けちゃ駄目だ」  言いながら(なんかそんな童話があったな)とカイは思った。 「……なぜだ?」  しかしマティアスはきょとんとしながら尋ねてきた。まさか『なぜ?』と返されると思っておらずカイは内心呆れた。しかし相手は一国の王様。一人、家で過ごすという経験が無かったのだろう。カイは小さな子供に諭すように丁寧に説明した。 「良い人か悪い人かわからないだろ? 特に男は駄目だ。襲われても抵抗できなさそうな相手は特に警戒しないと」  ダンの体格を思い出すと不安が更に増す。 「だが……この家には奪っても得になるものは何もないし、この国で私は身分は関係ないし、襲う理由が無い」  マティアスの質問にカイは絶句した。 (本気で言ってんのか……?!)  沈黙するカイを曇りのない緑の瞳が見つめてくる。これは誤魔化さずにきちんと言っておかないといずれ酷い目に遭いそうだとカイは確信に近く思った。 「あんた、いつも美しい美しいって言われてるだろ?! だから、その……身体目当てで襲う男もいるってことを言ってるんだっ」  カイの説明にマティアスは目を丸くした。だがそれは一瞬ですぐに目を細めた。 「二十六歳の男を襲う男なんているか? それに皆が『美しい』と言うのは私の地位を褒め讃えてるだけだ。私はその言葉を真に受けるほど自惚れてはいない」 「はぁ?! ここではレオンの地位は誰も知らないが、ハラルドさんもヘルガさんも、さっきのダンだって『綺麗な顔してる』とか『別嬪さん』だとか言ってただろう?!」 「……そう、だったか?」  どうやらマティアスは、普段から容姿を褒められすぎて、その言葉か挨拶程度になってしまい一々覚えていないらしい。 「とにかく! ここでは俺の方が常識があるんだ。頼むから警戒心を持ってくれ」 「……わかった」  マティアスはカイの言葉に納得出来ていないようで、渋々返事をした。 「でもダンとマルコはもう顔見知りだからいいんだよな?」  カイは言葉に詰まった。  あれだけの接触では二人の人間性はわからない。たが、田舎では他人との距離感が近い。きっとあの二人はまた来るだろう。あからさまに邪険にしてこの村で嫌われてもやりにくい。  カイは渋々答えた。 「なるべく、二人きりにはならないでくれ……」 「ん……わかった」  カイの要望にマティアスは納得した訳ではなさそうだったがとりあえず了承してくれた。  カイはこの世間知らずな『姫』を無事守り国へと送り届けられるか一気に不安になってきた。

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