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第三章 森の家⑤

 すっかり日が傾き、辺りが茜色に染まり始めている頃、カイは村に着いた。  ハラルドに馬車を返し、荷物を抱えて丸太小屋に向かうと、玄関先に男が二人立っていた。 「あ! おかえりなさい!」  不審に思い急いで近寄るとその男二人の間からマティアスが笑顔を覗かせた。その明るい顔から何か揉めている訳ではなさそうだ。  男二人のうち長身の方の男が振り向き「おー」と言って片手を上げた。カイは服をくれた男だとわかった。 「こんばんは。先日はありがとうございました」  何をしに来たのだろう、と不信感を顔に出さないようにしてカイは愛想よく声をかける。 「ここに住むことにしたんだって?」  狭い村の情報の速さに驚きつつ平静を装った。 「ええ、春までお世話になることにしました」 「この村、若者少ないから何かあれば言えよ。俺、ダン。こっちはマルコ」  カイは持っていた荷物を玄関先にとりあえず置くと、二人と握手を交わした。  ダンは焦げ茶色の長め髪を毛先がちょろっと出るくらいで縛っている。初めて見た時は夜だったわけだが、夕暮れのわりと明るい中で見るとますます体つきがカイよりもガッシリしているとわかつた。歳は二十代前半くらいだと思われる。  マルコはダンよりは背が低く、コロッと丸い体つきで薄茶のくせ毛がくるくると頭を覆っている。歳はまだ十代後半に見える。 「ウィルです。こっちは、」 「レオンな。さっき聞いたんだ」  マティアスを見るとニコニコとしている。この男二人とどれくらい何を話していたのか気になる。しかもマティアスはいつもの寝巻きにハラルドの上着を羽織っただけだ。下着は来た時に身に着けていた一着しか持ってないので、家にいる時は基本付けていないので今もそうだろう。 「ウィル、この服はダンがくれたのだな」 「ああ、そうだ。本当に助かりました」  そう嬉しそうに言うマティアスに合わせてカイも丁寧に礼を言った。 「いやいや、まさかこんな別嬪さんが着ているとは思ってなかったけどよ」  あからさまに鼻の下を伸ばして言うダンにカイは顔が引き攣るのを必死で誤魔化した。 「なんなら俺も持ってくるよ! ウィルさんには背丈が足りないかもだけど、レオンなら丁度いいのあるかも!」  マティアスがダンの寝巻きを着ているのを見て羨ましくなったのかマルコも言ってきた。するとマティアスがすかさず口を挟んだ。 「マルコ、ありがとう。でも足りない服はウィルが作ってくれることになってるんだ」  マルコの申し出をサラリと断り、マティアスは実に嬉しそう微笑む。 「へぇ、あんた裁縫できるのか」  ダンがカイに向って意外そうな顔をした。 「テーラーに出入りしてたんで簡単なものなら」  一応商人だと名乗ったので不自然でない程度に話を合わせる。そしてカイは会話を終わらせる方向に進めた。 「他にも頼る事があると思いますがその時はよろしくお願いします」 「おう! 何でも言ってくれ」  カイの頼みにダンが勢いよく返事をしマルコも横で頷いた。そして二人は「じゃあ、またな」と手を振り帰って行った。

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