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第三章 森の家④

 結局道具屋でカイの元々着ていた服と靴、そしてマティアスの靴も売り、旅にも耐えられそうな実用的なブーツを二足買った。その後反物屋に寄り、二人の服を作るべく布と糸を買い込んだ。冬に向けて防寒着用の厚手の生地も買うことが出来た。  さらに通りかかった雑貨屋の窓辺に櫛が飾られているのが目に止まり、カイはその雑貨屋に立ち寄った。 「櫛をお探しかい?」  結構な値段がするので迷っていると年配の女店主に声をかけられた。 「ええ。でもあまり手持ちが無いんです。実用的なもので安いやつありますか?」 「奥さんにかい? どんな髪なの?」  『奥さん』と言われたがカイは否定せず話した。 「金髪で、細くて絹糸みたいに滑らかで、クセはほとんどなくて……」  カイがその感触を思い出しながら話すと女店主なニヤニヤして返してきた。 「随分自慢の髪みたいだねぇ。一番安いのはこれだけど、せめてこっちくらいにしたらどうだい?」  女店主がカウンターに二つ櫛を出した。一番安いのは片歯で、もう一つは目が大きい歯と細かい歯が両方に付いた両歯型だ。 「目の大きい方で絡まりを(ほぐ)して、ああ、毛先から少しづつ梳かすんだよ。それで椿油をつけながら細かい歯の方で梳かすんだ。艶が出るよ」 「椿油……それってどれくらいするんですか」 「これで銀貨三枚だよ」 「この小瓶でっ?!」  カイの手のひらで包み込めるほどの小さな小瓶だった。これで何回分なんだろうか。  そもそもマティアスは髪を洗った後も「やっぱり切ろうか」と言ってきた。これからの生活で洗髪がそう気軽には出来ないと悟り、だったら売ろうと言ってきたのだ。だがカイはマティアスのあの美しい髪を切ることにはどうしても賛成出来なかった。 「……櫛だけください。あ、両歯の方で」  カイは渋々椿油を諦めた。無くても大丈夫だろうかとやや不安を感じるが。すると女店主が櫛を包みながら言い出した。 「商売になんないけどこっそり教えてあげる。食用の菜種油でもいいのよ。香りは付いてないけどね。食料品店に売ってるわよ」 「あ、ありがとうございます!」 「こんないい男に想われてて奥さんも幸せねぇ」  女店主はそう言って櫛を渡してきた。カイは受け取ると照れ笑いを浮かべつつ店を後にした。  帰り道、カイの気分は最高に良かった。  食料品店で売っていた菜種油は大きめの土瓶に入って銀貨一枚だった。やや高級品ではあるが髪に使う以外に料理にも使える。残った資金は他に何が必要か、ハラルドに助言を貰って決めたいと考えつつ村への帰り道を急いだ。  一文無しの不安からも解放され、マティアスと共に暖かく冬が越せそうだ。

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