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第三章 森の家③

 翌日、カイはハラルドから馬車を借り、一人で街へと出かけた。目的は黒真珠等を売りカネを得ることと、得た金で生活に必要なものを買うこと。  マティアスはここ数日動きすぎたので今日は家でしっかり休めと言った。一緒に行ってみたいようでとても残念そうな顔をしていたが。  ハラルドに聞いた街に向けて馬車を進める。医者がいると聞いた街よりは小さいが、物を買い取る道具屋などもあると聞いた。  日の出と共に出発し、太陽が天の一番高い位置に昇った頃にその街に着き、カイは目当ての道具屋に入った。 「買い取ってもらいたいものがあるんだが」  カウンターで店主らしき男に声をかけた。  強面の太った老人で頭は禿げ上がり、口髭は白い。 「どんな品だい?」  そうぶっきらぼうに聞く店主に、ハギレに包んだ黒真珠のボタンを見せた。 「フォルシュランドの黒真珠だ。ボタンに加工してある。全部で五粒。紛れもなく本物だ」  出された黒真珠のボタンを店主が単眼鏡で一粒一粒、確認していく。 「うむ。確かに本物だな……金貨四枚でどうだ?」 「はぁっ?!」  カイは驚き声を上げた。フォルシュランドで買ってももう少し高いはずだ。海から遠く離れたバルテルニアならもっと値がつくと踏んでいた。  カイは店主に舐められていると感じ声を荒げた。 「そんなに安いワケがないっ! 俺はフォルシュランドでテーラーも相手に商売してたんだ。この質の本物の黒真珠にそんな価格はあり得ない! 最低でも金貨二十枚は行くだろう!」  カイの言葉に今度は店主が目を丸くし、大声で言った。 「金貨二十枚?! ハッ、無理だっ! こんな辺鄙な田舎じゃあ、いくら価値があってもそんな高級なボタンを使える金持ちは居ねぇ。出しても……十枚だ」 「十五!」 「う……十二だっ。それ以上はうちも無理だ!」  店主の言葉にカイは悩んだ。  金貨十二枚。アルヴァンデールの通貨で言えば六千ダルベスくらい。持ち家ならひと月暮らせるか……程度の金額だ。 (もう一軒行くべきか……他に買い取ってくれる店はあるのか?)  カイが悩んでいると店主が口を開いた。 「旦那、悪いこたぁ言わねぇ。きっとここらでこれ一粒に金貨十二枚出せる店はうちくらいだ」 (……ん? 一粒?)  ドッと心臓が跳ねた。カイは頬が上気する気配を感じ、店主に気づかれないように悩んでいるフリをし、手で顔を覆った。  勘違いしていた。店主はずっと一粒の値段で、カイは五粒の合計で話していたのだ。フォルシュランドでは取引の際、まず合計から話すので気づかなかった。どうやらこの地域では単価から話すのが普通らしい。 「ん〜〜、仕方ないな。一粒金貨十二枚、合計六十枚でお願いしようっ!」  カイはニヤけるのを耐えて顔を上げた。

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