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第三章 憧れの暮らし③

「真冬になったら雪で家から出られない日もあるだろうから、こっちにも食料置いておいたほうがいいって」  パンを齧りながらウィルバートが報告してくる。 「料理……したことある?」  マティアスは不安に思いウィルバートに尋ねた。 「簡単なものなら作れるよ。レオンは……無いよな」  ウィルバートがマティアスを偽名で呼びつつ確認してくる。 「料理は無いけど、魔術薬を作る勉強はしてきた。大して変わらないんじゃないかと思うのだが……」 「まあ、簡単なことからちょっとずつ覚えたら良いんじゃないか」  ウィルバートが苦笑いしながら答えた。  現状、食事はヘルガに用意してもらっていた。朝食や昼食は貰ってきたものをこの小屋で食べ、夕食はハラルドの家で四人で食べている。さすがに老夫婦の冬に蓄えを食い尽くすわけにはいかないので、ウィルバートがハラルドと相談し黒真珠を売った金貨で麦や芋、豆など買い、渡してある。  さらにマティアスとウィルバートの噂を聞きつけた村人たちが不憫に思い、様々な食料を提供してくれている。実にありがたい。  マティアスが負傷しているので薪集めなど力仕事はウィルバートがしている。しかしマティアスは生活能力が乏しく力仕事以外も結局ウィルバートがしている状態だ。なので料理くらい覚えてなんとか役に立たねばとマティアスは思っていた。  マティアスは料理でふと思い出した。 「あのさ、バル……魔術師へのお礼、明日が約束の日なんだ」 「ああ、もう十日経つのか」  日々忙しいウィルバートはすっかり忘れていたようだ。 「でさ、ヘルガさんにスープの作り方を教わって、それを振る舞うのはどうかと思ってるんだが」 「そんなのでいいのか?」 マティアスの言葉にウィルバートは意外そうな顔をした。 「あのスープはとても美味しかった。問題はヘルガさんが迷惑じゃないかかどうかだと思うのだが」  負傷してから目覚めた時、初めて口にしたあのスープはこれまでの人生で一、二を争う程の美味しさだった。幼い頃カノラ村で母と過ごした日々の味がした気もする。 「そうだな。夕食の時にでも相談してみよう」  ウィルバートがそう同意してくれ、マティアスはホッとした。 「じゃあ、薪集め行ってくる」  朝食を食べ終わったウィルバートが席を立った。マティアスはふと思い立ちウィルバートに尋ねた。

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