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第三章 憧れの暮らし⑤

 その時、コンコンと玄関扉をノックする音と共に「ダンだけどー、誰かいるー?」と声がして、マティアスは扉をそっと開けた。 「やあ、ダン。どうしたんだい?」 「ああ、レオン! これりんご。やるよ」  そう言ってダンは足元に置いた木箱を開けて中を見せた。中にはめいいっぱいりんごが詰まっている。 「わぁ、こんなにたくさん! いいのかい?」 「ああ、春先まで持つしさ。中まで運ぶ?」 「ありがとう。でもどこ置いて良いかわからないからウィルが帰ったら運んでもらうよ」  マティアスはウィルバートからの言いつけを思い出しやんわりと断った。 「そうか。一人なのか? 何か手伝おうか?」 「いや、私も暇なくらいだし……」 「そっか。暇なら村案内する? まだよく知らないだろ?」  ダンがぐいぐいと話して来るのでマティアスは少し戸惑った。しかしウィルバートから『誰かと二人きりになってはいけない』注意を受けている。なんとか断らなくてはと考えた。 「ありがとう。……でも、ウィルにちゃんと傷を治すように言われてるから、安静にしてるよ」  マティアスの答えにダンは「そっか……」と残念そうに答えた。 「あのさ、ひょっとして……」  ダンが何やら聞きにくそうに、だが聞きたそうに尋ねてきた。 「二人って恋仲なのか?」 「えっ!」  突然の質問にマティアスは驚いた。そして顔が熱くなり心臓がバクバクと鳴り始める。 「な、なぜそう思う?!」  マティアスの質問にダンは頭を掻きながら苦笑いしている。 「いや、何となく見ててそうなぁ〜って思って」 「わ、私はそんなに顔に出てるのか?!」 「え……いや、どっちかって言うと……」  ダンがモゴモゴと何か言っているがマティアスは激しく動揺した。  ここへ来てからマティアスはウィルバートへの想いを出来るだけ押さえあまり態度に出さないよう心掛けているつもりだった。  記憶のない今のウィルバートに一度だけ抱いてもらったが、その後避けられていたことを思うと、やはり男は無理だと思われたのだと予想している。 「わ、私が一方的に想っているだけなんだ……。ウィルは女の人が好きだから……」 「そう、なのか……。じゃあ、レオンは男の方が好きなの?」  ダンの問にマティアスは「うーん」と唸り考えた。 「……ウィルしか好きになったこと無いから、よく分からない」  マティアスの答えにダンは「そっか」と小さく言い、眉尻を下げて少し笑った。 「なんかゴメンな。まだ会ったばかりなのにこんな事聞いて。今度ウィルの薪集め手伝うよ。言っといて」  ダンはそう言うと「じゃあ!」と手を振り帰って行った。

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