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第三章 お礼③
バルヴィアは不機嫌なままパンを鷲掴みにすると歯で引きちぎるように食べた。
「……ボソボソしてる」
そして咀嚼しながら文句を吐く。
「田舎のパンだからな。いつも食べてるのはもっとふわふわしてるか? こうしてさ、スープにつけて食うんだよ」
文句を言われながらもハラルドがバルヴィアに食べ方を教えてくれる。バルヴィアはハラルドの手先を興味深げに見つめ、同じようにパンをスープに浸し、ボタボタと汁が垂れるそれを下から口へと入れた。
「ん!」
バルヴィアの目が赤く輝いた。この魔術師の姿の時は青い目だったくせに一瞬変身術が解けかけた。
「ヴ、ヴィーッ……」
マティアスの焦りを全く気にすることなくバルヴィアはスープの皿を手に持つと皿に口をつけてゴクゴクと全て飲み干した。具ごと丸飲みしているようだ。そして赤く目を輝かせて宣言した。
「うまいっ!」
「あらあら、良かったわぁ」
バルヴィアの言葉にヘルガは喜び、ウィルバートやハラルドも笑った。
空になった皿にさらにヘルガがスープのおかわりを入れる。空かさず食べようとしたバルヴィアをマティアスは止めた。
「ヴィー、ちょっと待て。スプーンを使え。こうだ」
マティアスはバルヴィアに食べ方を見せた。
「わしには必要ない」
「駄目だ。一緒に食事をするなら最低限の作法は必要だ」
「めんどくさいのぉ」
バルヴィアはそう不満げに言いつつスプーンを持つとマティアスを真似て食べてみた。
「そうそう、具もちゃんと噛んで。その方が美味しい」
バルヴィアは意外にも素直に従い具材を咀嚼し「確かに……」と小さく呟いた。
たっぷり作ったスープをバルヴィアは半分以上一人で食べ、テーブルに並んだ他の料理も平らげた。
「次は何をしたらこの『お礼』が貰えるんだ?」
ヘルガの料理が余程気に入ったのかバルヴィアは帰り際に質問してきた。
「あらあら、そんなに気に入って貰えるなんて嬉しいわぁ。別に何も無くても来ていいのよ?」
ヘルガは嬉しそうにニコニコしている。
「ヘルガさん、駄目です。この者は常識が無いんです。そんなこと言うと毎日来てしまいます。ヴィー、これは冬の為の貴重な蓄えなんだ。貰えるからと食い尽くしてはいけない」
「わかった。じゃあたまに来る。食い物も持ってこよう。お前たちに飢え死にされたらこれが食えなくなるからな」
バルヴィアは偉そうにそう言うと「じゃあ帰る」と言って玄関から出て行った。この前のように燃えるように消えることはしなかったのでマティアスは内心ホッとしていた。
「不思議な子ねぇ。一人で暮らしているの?」
ヘルガの質問にマティアスは考えながら答えた。
「私もよく知らないのですが、家族もいなさそうで。魔術で大抵なことは出来てしまうようなので、生活には困って無いようですが……」
「家族がいないのは淋しいだろうな」
マティアスの言葉にウィルバートがぽつりと言った。
ウィルバートから家族の記憶すら奪ってしまったマティアスは胸がキリキリと痛んだ。
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