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第三章 お礼②

「『お礼』を貰いに来たぞ」  マティアスの予想通り、バルヴィアは日没と同時にエクルンド家に現れた。 「ああ、ヴィー。座れよ」  玄関扉を開け放ち偉そうに立っているバルヴィアにマティアスは声をかけた。 「ヴィーって……」 「ヴィーさん、いらっしゃい。さあさあ座って座って」  突然『ヴィー』と呼ばれきょとんとしているバルヴィアにヘルガが呼びかけ強引にテーブルへと付かせる。 「よう来なさったな。うちのが作る料理はなかなかだぞ。豪華じゃねぇが遠慮せず食っていってくれ」  席に座ったバルヴィアにハラルドが話しかける。バルヴィアは戸惑いながらマティアスを見た。 「わしはお前から『お礼』を貰いに……」 「あっ、ヴィー、手紙は届けてくれたか?」 「……ああ届けたぞ。これ、あの娘からだ」  バルヴィアはそう言って封筒をマティアスに差し出した。 「ありがとう!」  マティアスはその手紙を受け取り、すぐに読みたい気持ちを押さえ懐へとしまった。 「私からのお礼は、ヘルガさんの手料理だ。私も手伝ったんだぞ。……まあウィルの方が役に立っていたが」  マティアスがそう言うと、ウィルバート、ヘルガ、ハラルドの三人が笑った。マティアスは結局茸のゴミ取りをしていただけだった。 「『お礼』がこれなのかっ?」 「お前、誰かと食事なんてしたこと無いだろ?」  マティアスの答えにバルヴィアは不満そうに顔を顔を歪ませた。 「さあさあ、田舎のおばあちゃんの料理ですけど、二人に手伝ってもらって沢山作ったから遠慮せずに食べてね」 「ほら、若いんだから沢山食べるだろう」  不機嫌そうなバルヴィアに構うことなくヘルガがスープを差し出し、ハラルドはバルヴィアの前の皿に大きなパンを二つも乗せた。他にもテーブルには茸のソテーや果物、さらに鶏の丸焼きまである。鶏はハラルドが「客が来るなら」と、飼っていた鶏をわざわざ絞めてくれたものだ。

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