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第三章 お礼①

――翌日。 「じゃあ二人で、野菜の皮剥いてくれる?」  ヘルガから根菜とナイフ二本を渡され、マティアスは頷いた。 「やってみます」  昨晩ヘルガに魔術師ことバルヴィアへ、お礼を兼ねてスープを作りたいと相談した所、ヘルガは快く応じてくれると共に、「だったらうちでの夕食に招待しなさいな」と言ってくれた。  そして今、その夕食作りを手伝うべく、マティアスとウィルバートはヘルガの元にやってきた。  大きさの違うナイフ二本。ウィルバートは小さいナイフをマティアスに渡してきた。 「こっちのほうが使いやすいんじゃないか」  マティアスは頷きナイフを受け取ると芋を手に取った。 (皮を……剥く……)  つまりは表面の皮を薄く切り落とし中身と分ければ良いのだ。簡単な作業だ。そう思い芋にナイフを当てた。 「ふんっ!」 「なっ!」  力を込めるとナイフが芋の身とマティアスの指先を削ぎ、その欠片が何処かに飛んでいった。 「指っ! 切ったか?!」  ウィルバートが慌ててマティアスの腕を掴み手を確認する。人差し指の伸びかけていた爪の先が欠けている。血は出てない。 「危なっ! やったこと無いなら言えよっ!」 「い、いや、できるかなーって思って……」  ウィルバートに怒られ、しゅんとしたマティアスにヘルガが声をかけてきた。   「あらあら、大丈夫? じゃあレオンは……(きのこ)のごみとってくれる?」  そう言われ、ざるに盛られた茸を渡された。 「ハラルドがさっき採ってきたのよ。これをこうやって一個ずつ綺麗にして……」  茸には沢山の落ち葉や細かな枯れ草が付いている。ヘルガは慣れた手つきで表面に付いたそれらを取り除く作業をやって見せてくれた。  マティアスも手に取りやってみる。茸は城でも食べているが、採れたての茸にはこんなにも不要なものが付いているとは知らなかった。傘の裏側にまで細い草が入り込んでいる。それを取ろうとしたらボロッと傘が取れた。 「あっ、ごめんなさい!」 「いいのよ、崩れちゃうのもあるから」  ヘルガはニコニコしながら許してくれる。  城で出される料理には崩れた茸なんて入ってなかった。自分のやり方が悪いのか、はたまた城ではマティアスにはいつも崩れてないものが出されていたのか……。  マティアスの作業を見守っているヘルガがふと虫を追い払うような仕草をした。 (えっ……?)  マティアスは内心驚きつつも気付かないふりをして観察した。ヘルガが追い払ったのは明らかに妖精だ。黄緑に光る妖精がヘルガの回りを飛び回り、マティアスの回りに飛んでいる金色の光の妖精たちとも時折絡んで遊んでいる。 (ヘルガさん、妖精が見えてるのか?) 「なあ、レオン」 「えっ、なに?」  突然ウィルバートに呼ばれてマティアスは慌てた。 「魔術師には今晩来るように伝えたのか?」  ウィルバートが芋の皮をするすると器用に剥きながら尋ねてきた。 「ん……言ってないし伝える術がないのだが、あいつには分かるんじゃないかと……」 「魔術って、凄いな……」  ウィルバートが関心したように言う。  マティアスは曖昧に笑ってみせた。  人間の魔術師なら相手の心を読む事など出来ない。しかしあの魔術師に扮しているバルヴィアは上級クラスの魔物だ。それがマティアスとの契約で『ウィルバートの命を守り、人らしい生活に導く』という任務に就いている。だから常にウィルバートを何らかの方法で監視しているはずだった。 「それにしても魔術師さんと知り合いだったなんて、世の中って狭いわねぇ〜」  バルヴィアを夕食に招待することになった際に、ハラルドとヘルガには魔術師とは知り合いだったことを話した。マティアスは「そうですね」と曖昧に返事をする。 「魔術師さんて、お名前何ていうの?」  ヘルガが至極当然のことを聞いてきた。ウィルバートにも同様のことを聞かれ、その時は本名は言えないと伝えたが。マティアスは悩みながら答えた。 「えっと……彼の名前は……」

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