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第三章 薪集め①
「ウィル、すげぇな。もうこんなに集めたのか」
裏庭に集められた木材を見てダンが関心したように声を上げた。
ここバルテルニア王国ルンデ村に滞在して早二十三日目。『ウィル』と呼ばれる事にも慣れてきたとカイは感じていた。
「一冬越すにはまだ足りないですよね?」
「まあ、もうちょっと無いと不安かなぁ」
ダンは宣言通り薪集めを手伝いに来てくれたが、マティアスへの下心を感じカイは警戒していた。
「……なあ、そんな丁寧に話さないでくれよ。気軽にやろうぜ」
カイの警戒心を悟ってかダンが申し出てきた。ここで拒否して関係性にヒビを入れるのも得策では無い。カイは笑顔を作った。
「そうだな。よろしく頼む」
二人は荷車を引いて森へと入った。
カイが一人の時は倒木や細い木を切り倒す事しか出来なかったが、今日は二人作業で太め木も切り倒し運べる。
「ウィルは商人なんだろ? それにしちゃあ手慣れてるな」
カイが木の幹に斧を振っているのを見て、ダンに感心した様に声を掛ける。
「まあ、色んな仕事してたから」
「レオンは根っからの貴族って感じだけど、ウィルは成り上がりってことか」
「『成り上がり』って言うほど成功もしてないけどな」
「じゃあ、あの貴族様とはどうやって知り合ったんだよ」
「仕事で関わっただけだ」
「ふーん」
なんとなくダンはニマニマとカイを見てくる。その視線に無視してカイは斧を振るった。カン! カン! と森に斧の音がこだまし、やがてメキメキと音を立てて木が倒れる。それを待っていたようにダンが再び声を出す。
「でもさ、ウィルはレオンに惚れてるんだろ?」
カイはダンを見た。睨んだと言ったほうが正しいかもしれない。
「あははっ、だよなぁ」
ここでマティアスへの想いを否定したらダンは『じゃあ俺が口説いていい?』と言いそうだ。カイは駆け引き無しで答えることにした。
「図らずとも二人で暮らすようになったんだ。春までには俺が絶対に落とす」
カイの宣言にダンは呆れたように笑った。
「もうレオンは落ちてるように見えるけど?」
やはりダンはあのりんごを持って来た時、マティアスから何か聞いたのだろう。あの時のマティアスは妙に動揺している様子だった。
「俺……あいつの昔の男に似てるらしいんだ」
カイは迷いながらも話した。少し誰かに愚痴りたかったのかもしれない。
「え、マジ?」
「しかもそいつは死んだらしい」
「あーそれって、一番勝てないヤツじゃん」
「そうなんだよ……」
ダンは「なるほどねぇ」と呟き、憐れむような目でカイを見てくる。
「じゃあウィルはあの美貌で『あの人に似てる。ステキ』って見つめられて、勘違いして惚れちゃったってことか」
「あー、そうだよっ!」
カイが苛立ち怒鳴るとダンは「アハハハ」と笑った。
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