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第三章 冬の日々③*

「カイが初めて中に出してくれた時、嬉しくて……。女のように孕むことは出来ないけど、この身に取り込めないかと思って、魔術をかけてみたんだ」  カイと名乗るウィルバートに激しく抱かれたあの夏の日。それはつい半年前のことだ。  もうこんなことは二度無いかもしれないと思い、ベレフォードが来る前になんとしてでも愛しい人の種を身に取り込みたくて必死に術をかけた。自分で魔術を構築するのは初めてだったが、望み通りの成果か出た。 「なんか、俺の子を孕みたいって言ってるように聞こえるんだが……」  ウィルバートが背後から抱き締めてきてマティアスの耳元で囁いた。マティアスは「ふふっ」と笑った。 「どんな術でも男は孕めないってわかってるよ。死者を蘇らせるほうがまだ可能性がある」 「そう……なのか……?」  ウィルバートの驚いた顔がすぐ近くにあった。  マティアスは微笑みながらウィルバートに寄りかかりながらその髭の撫でた。 「昔ウィルから男同士で身体を繋ぐのは男女の子を成す行為の真似事だって聞いて……憧れてるだけなんだ」  その答えにウィルバートがマティアスの肩に顎を乗せて「ふーん」と呟いた。 「……なあ、ウィルってどんな奴だったんだ?」  ウィルバートがさらに踏み込んで過去のことを尋ねる。  マティアスは「うーん……」と唸り悩んだ。過去のウィルと今のカイ。本質は余り変わらないように感じている。 「口うるさかったかな」  マティアスは過去のウィルバートを思い浮かべ「ふふっ」と笑った。 「よく口喧嘩したよ。でも優しかった。自分のりんごの方が甘かったらそっちをくれるような人」  ウィルバートは「ふーん」と相槌を打ちつつ、マティアスの髪の手入れを再開した。布で水気をとりつつ櫛をかける。 「あと……剣術が凄かった。城の兵士で競う武闘大会があるんだけど、アーロンに次いで二位でさ」  当時ウィルバートは二十歳だった。アーロンは既に近衛兵隊長で、決勝は接戦だったのをよく覚えている。 「本当にあとちょっとでアーロンに勝てるんじゃないかと思ったんだけどね、最後の最後でアーロンが一瞬の隙を突いて。……でも私は酷いんだ。ウィルが負けてちょっとホッとしてたから」 「なぜ?」 「優勝者は決まって『この勝利を陛下に捧げます』って言うんだ。近衛兵は皆、王の配下だから。でも騎士なら別だ。仕えている主の名を出す。いずれ私の騎士になればその時は私に勝利を捧げてくれるはずだと思ってたから」  その時まだ十三歳だったマティアスはウィルバートが祖父イーヴァリの所有であることが悔しくて堪らなかった。今思えば実に幼稚であると思うのだが。

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