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第三章 冬の日々⑤
マティアスとウィルバートはバルテルニア王国で新年を迎えた。
相変わらず雪はよく降りよく積もり、日々雪掻きに追われている。
マティアスはハラルドの家まで雪を踏み、通り道を作ることが習慣になっていた。雪が止み晴れた日の空は澄み切って深く鮮やかな青が広がる。その美しい空のもと、人一人が通れる幅で真っ白な雪をひたすら踏みしめるのは結構楽しい。
ウィルバートと暮らす丸太小屋には、よほどの吹雪でなければ大抵誰かが服作りの依頼で尋ねてくるようになった。
材料を持ち込みでとお願いしたため、古着の仕立て直しが多い。難題にも真摯に向き合い問題を解決していくウィルバートの腕が村の中で評判になり、当初商人だと言ったがもうそんなことは誰も気にしていないし、覚えても無いらしく、今や完全な仕立て屋になっている。
「表の雪だるま、可愛いねぇ」
お茶を出したマティアスに、客として来た老婆が微笑んだ。
「ありがとうございます。あんなに大きいの作ったのは初めてですよ」
雪だるまは昨日ダンとマルコが来たので四人で作った。マティアスの肩くらいまでの大きさのものを二体作り、玄関先に並べている。雪は意外と綺麗な球体にはならないし、固めると想像以上に重いことを初めて知った。
「お里で雪は降らないのかい?」
「こんなには積もらないですね」
「あらー、うらやましいねぇ」
村人達は服の依頼以外にもこうして異国人の珍しさからおしゃべり目当てでもやってくる。マティアスも村人達との気さくな会話が実に楽しかった。
「ねぇ、あなた、奥さんいないんですって?」
「え、ええ……」
ここに来て何度も言われるこの話題。会話は楽しいがこれだけは困る。その後に続くのは決まって『この村の娘と結婚しないか』だからだ。
「ねぇ、うちに十六になる孫娘がいるんだけど。どうかねぇ?」
(ほらやっぱり……)
マティアスはそう思いながら苦笑いで答えた。
「春には国へ帰りますので……」
「じゃあ、あっちの仕立て屋さんは?」
「いや、ウィルは……」
マティアスは困惑しながらウィルバートを見た。別の客の相手をしているウィルバートに老婆が大きな声で話しかけた。
「ねえねえ、仕立て屋さん、この村に残ったらどう? うちの十六になる孫娘、婿探してるんだけど」
するとウィルバートではなくウィルバートが対応していた老人が口を挟んできた。
「そりゃあんた、抜け駆けは良くねぇよ? こんな色男の二人だ。村中の娘たちが狙ってるよ」
「なんだい。そうなのかい? じゃあ皆集めてさっさと選んで貰ったら?」
老婆がとんでもない事を言い出し、マティアスは焦った。するとウィルバートが笑いながら口を開いた。
「勘弁してくださいよ。こんな歳で独り身なんですから、ろくでもない男ですよ。レオンは貴族ですから国へ帰らなければならないし、あんな貴族の坊ちゃんに一人旅させる訳にはいきませんから、俺も一緒に帰りますよ」
ウィルバートの言葉に老人と老婆がこちらを見る。
「……確かになぁ」
「あれじゃあそこらの娘よりも人攫いに遭いそうねぇ」
三人に同じような目線を向けられマティアスは少々居心地が悪さを苦笑いで誤魔化した。
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