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第三章 冬の日々⑥
雪が降っていない日は時折ハラルドに夕食を食べに来いと誘われる。丸太小屋で二人きりだとろくなものを食べていないと思われているようだ。確かにマティアスには凝った料理は作れないし、ウィルバートも仕立ての仕事で意外と忙しい。何より大雪で誰も来ないと確信があると食事はりんごを齧る程度で済ませ、ひたすら睦み合ってしまう。
一月半ばのとある日。その日もハラルドが夕食に誘ってくれた。
太陽が西の山へ帰ろうとしている頃、マティアスとウィルバートがハラルドの家を尋ねるとそこには波打つ金髪の男がいた。それを見たマティアスは顔を顰め低い声を出した。
「……なんでヴィーがいるんだよ」
「なんでって、見てわからんか? ヘルガを手伝ってやってるんだ」
バルヴィアはヘルガから借りたと思われるエプロンを着け、さらに髪を束ねて青いリボンまで着けてる。
「ヴィーはこの前の大雪の日にも来てね、こんな大きい鹿、持ってきてくれたのよ。まだお肉残ってるから持っていってね」
ヘルガが食卓に料理を出しながら嬉しそうに教えてくれた。
「鹿ですか。凄いな」
肉が貰えることにウィルバートまでが嬉しそうな声を上げ、マティアスはさらに気分が悪い。
「外が真っ白で見えねぇ程吹雪いてたから泊まっていけって言ったのに『大丈夫だ』って帰っていってなぁ。心配してたんだぞ」
ハラルドの言葉にバルヴィアは『フンッ』と鼻を鳴らす。
「わしをそこら辺のヒトの仔と一緒にするな」
バルヴィアはこの老夫婦にだいぶ可愛がられているようだが、マティアスにはいつ人でないとバレるかヒヤヒヤだ。
「で、レオンとは喧嘩してから会ってないんですって?」
ヘルガがマティアスとバルヴィアを交互に見ながら尋ねてきた。
「……私は、あの件に関してお前を許すつもりはない」
「はんっ、なぜわしがお前ごときに許しを請わねばならんのだ」
睨むマティアスにバルヴィアはさらに薄ら笑いを浮かべる。
「だいたい、わしのお陰でお前らはイイ思いをしてるではないか」
ニヤついたバルヴィアの発言にウィルバートが驚きながらマティアスに視線を送ってきた。目が『そんなことまでわかるのか?!』と言っている。マティアスは肩を竦めた。
「はいはい、何があったか分からないけど、私もハラルドもこんなに楽しい冬は久しぶりなのよ。この家では是非とも仲良くして頂戴」
睨み合うマティアスとバルヴィアをヘルガが笑いながら諌めた。
「ええ。この家で醜く喧嘩などしません」
「ま、それに関しては同意じゃ」
大人しく休戦協定する二人にヘルガは満足そうな笑顔を浮かべた。
「良かった。息子が一気に三人も出来たみたいで私達嬉しいのよ」
その言葉にマティアスの胸に温かさがひろがる。しかし共に罪悪感も浮かぶ。
「わしが息子? はんっ、ヘルガ、お前などわしにとっては小娘だぞ」
バルヴィアの言葉にマティアスはギョッとした。もはや魔物であることを隠そうともしていない発言だ。しかしマティアスの心配をよそにハラルドが「アハハハ」と豪快に笑った。
「もう、こんなおばあちゃんを小娘だなんて。ヴィーは面白い子ねぇ」
ヘルガも照れ笑いを浮かべ嬉しそうだった。
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