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第三章 発覚と崩壊①

 二月に入り寒さはより厳しくなった。晴れ間も少なく空は常に分厚く暗い雲に覆われている。  午後になり雪がちらつき始めた空の下、マティアスは井戸で水を汲み上げ洗濯をしていた。水も冷たく外も寒く、干す場所も暖炉の前しかない。なので洗濯物は下着など必要最低限のものだけだ。  桶に水を入れ二人分の洗濯物を洗う。手の熱が冷水にどんどん吸い取られ、その冷たさが腕から這い上がってきて心臓をも鷲掴みにしてくる。 「ううっ……冷たぁっ」  布を擦り合わせて洗うが耐えられなくなり口元でハアハアと息を手のひらに吹き掛ける。休み休みやっていると終わらないので、我慢して残りを片付けようと手を早めた。 「大丈夫か?」  後からウィルバートが声を掛けてきた。そしてそのまま盥に残っていた洗濯物を取り大きな手で絞ってくれる。 「ウィル、いいよ。私がやる」  なんでもウィルバートに甘えててはいけない。辛い仕事こそ引き受けたい。 「大丈夫だって。俺、今暑いくらいだからこれ絞るくらい平気だ。ほらもう終わる」 「……ありがとう」  マティアスの礼にウィルバートは甘い微笑みを返してくれる。 「雪、降ってきたな。もう俺も中に入るよ」  絞った洗濯物を盥に入れ、ウィルバートは立ち上がった。マティアスも返事をしそれに倣う。 「稽古はどう?」 「んー、どうかな。また見てくれよ」 「ああ、いいよ」  少し前にマティアスとウィルバートは剣術の手合わせをした。マティアスの怪我もほぼ回復し、国へ帰る旅に備え、二人で護身用の剣術を磨くことにしたからだ。  木剣もないので適当な細い薪を握っての手合わせだったが結果はマティアスの圧勝。その結果が悔しかったのかウィルバートは暇を見つけては稽古を重ねている。  マティアスからしたら勝敗は予想通りではあった。ウィルバートは剣術に於いて、知識の部分を失っており、今は身体に染み付いた『癖』だけで動いている。それに対してマティアスは魔術と並行して剣術も鍛錬を重ねてきた。マティアスが勝つのは当然だった。  しかしマティアスの予想以上にウィルバートはその『癖』だけで対抗してきた。記憶がないのによくそんな動きが出来るなと関心した。あとはマティアスに対しての攻撃に遠慮、と言うか恐怖心がある。手加減にも技術がいるのだ。 (城でアーロンに稽古をつけてもらったら、私なんてあっという間に追い抜かれるな)  マティアスは期待九割、悔しさ一割を感じていた。

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