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第三章 英雄⑤
火焔石から出てきたのはアルヴァンデールではあまり見かけない緑の妖精。風を司る妖精だ。
「そ、そんな、我々は……妖精を……焼いていたのか……?」
クラウスが愕然と呟き、セラフィーナとマティアスも息を詰まらせた。
アルヴァンデール王家にとって、特に魔力を有する者にとって、妖精とは友も等しい存在だ。なのに長きにわたりそれを殺し、富を得てきたということになる。
「ヴィー、なぜ妖精たちは石に閉じ込められているんだ?」
ヴィーを抱きかかえるウィルバートが尋ねた。
「……さあ。もう、忘れたよ」
ヴィーは力無く溜め息のように言葉吐く。
「ただ、言えるのは……お前たちが言う……魔物と妖精に違いはない。……お前ら人の仔にとって有益なものを……お前らが勝手に妖精と呼んでただけ……」
マティアスが解放した緑の妖精は無邪気に飛び回りマティアスの近くにいた金の妖精たちともじゃれ合っている。
「母さま、クラウス殿下。……今の私達ならこの山にある全ての火焔石から彼らを解放出来るのではないでしょうか」
マティアスがそう問いかけるとセラフィーナとクラウスが驚き顔を上げる。
「今のヴィーを……このバルヴィアを倒しても、また火焔石を使い続ければまた新たなバルヴィアが生まれてくる気がします」
「……そうね。火焔石がある限り、禁止しても私達が死んだ後にまた使う人間は出てくるわ」
「確かにそうなるな……。やってみるか。三人でどこまでできるかわからんが」
マティアス、セラフィーナ、クラウスの三人は顔を見合って頷いた。
「お、お待ちくださいっ! この山にある全ての火焔石から妖精を解放するおつもりですか?!」
突然ウィルバートが話に割って入った。
「出来ればそうしたい」
マティアスはウィルバートを真っ直ぐに見て答えた。
「もしそれが成功した場合、山自体が崩壊する可能性が高いです。第五階層から下はまだかなりの密度で火焔石が存在していると思われますので」
ウィルバートの指摘にクラウスがマティアスに視線を向け尋ねた。
「この男、何者だ?」
「彼はブラックストン家の者です」
マティアスはクラウスに説明しながらも、ウィルバートが完全に記憶を取り戻している事実にも触れられ嬉しくなった。
「では、輝飛竜に乗り、空から解放を試みましょう」
セラフィーナの提案にその場の全員が頷いた。
セラフィーナとクラウスはそれぞれのものらしい輝飛竜に乗った。しっかりとした鞍が着けられた二頭の輝飛竜は優雅に飛び立った。
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