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第三章 英雄⑥
マティアスとウィルバートもフェイに乗る。ウィルバートは外套の胸元を開け、抱いていたバルヴィアをそこに入れた。マティアスはバルヴィアが少し羨ましく感じたが、子供じみた嫉妬をしている場合ではないと、もやつくその感情を飲み込んだ。
「フェイ、行こう。あ、ゆっくりな!」
マティアスの指示でフェイが飛び立った。バルテルニア王国から旅立った時よりは格段に優しく飛び立ったフェイだが、セラフィーナ達の輝飛竜に比べるとまだかなり荒っぽい。
東の空が白く光り始めていた。あと少しで太陽が顔を出すだろう。
明るくなり始めた空に三頭の輝飛竜が舞い、三角形を描きながら回り飛ぶ。バルヴィア山の火口を覗き込みながら、マティアスはウィルバートの背中に抱きつき右手に持った杖をかざした。
(みんなっ、さあ出てきて! もう自由に……)
マティアスが祈り願うと杖から金色の光が線となって火口へと照射される。セラフィーナの杖とクラウスの剣からも同様の光が差し、三本の光の線は輝飛竜の旋回に合わせて編み込まれるかのように火口を照らし続けた。
すると、その光が射すあたりから赤や青や黄色などの光がふわふわと湧き出てきた。
「マティアスっ! 光ってる! 俺にも見えるっ!」
ウィルバートが興奮気味に叫ぶ。
夜明けの薄明かりの中、ポコポコと色が生まれ喜ぶように飛び回っていく。そして東の山間 から強い陽の光が差し込んだ。
朝日に照らされたバルヴィア山。陽の光にも助けられたかのようにマティアス達三人が放つ光がより強くなり火口からさらに光が溢れ出した。
「ウィル! 凄いよ! 見えてるっ?!」
マティアスは杖を構えながらウィルバートに叫んだ。
「ああ! 見えてる!」
ウィルバートもまた興奮しながら応える。
バルヴィア山はゴゴゴ……と地響きを立てながら崩れ始めた。その沈み落ちる土砂をものともせず沢山の光が山の中から空に登ってきている。
その光はやがて七色の柱となり空へと登り拡散していった。
「こんなに、沢山の妖精たちが閉じ込められていたなんて……」
アルヴァンデールでこれほどまでの妖精を見たことは無かった。バルテルニア王国で妖精の種類が多いと感じたが、アルヴァンデールが少なかったのだとマティアスは実感した。
やがてドォォォンと大地を震わせる轟音と共にバルヴィア山は完全に山の姿を消し、巨大な窪地が出来た。そこには大量の地下水が流れ込んできている。
「……これは、大きな湖になりそうだな」
ウィルバートが呆然としつつ呟いた。
「マティアスっ! やったわ! 成功よ!」
セラフィーナが嬉しそうに手を振り叫んできた。
「母さまっ! クラウス殿下っ! やりましたっ!」
マティアスが叫ぶとクラウスも手を上げて応えた。
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