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第三章 帰還⑦
「私はクレモラ公爵の指示で、マティアス陛下のお召し物に輝飛竜の卵の欠片を入れました。輝飛竜が陛下を襲ったのはそれが理由です」
歩み出たマリアンナの言葉にその場にいた大勢の人がざわめいた。
「クレモラ公爵は『輝飛竜が王に向って少しでも威嚇すれば、それだけで玉座は揺らぐ』と。私は! マティアス様にもっと自由になって頂きたくて、その言葉に乗ってしまいました!」
「い、言い掛かりだ! 何故そのようなことを私がっ! お前が勝手にやったのだろう!」
自分より遥かに身分の低いマリアンナに対してクレモラは指を差し唾を飛ばしながら怒鳴りつけてきた。
「クレモラ卿、今朝このルーカス、もといマリアンナの自宅に刺客を送り込みましたね。マリアンナのお父上、オーケルマン氏が刺されました。幸い我々が駆けつけたので助かりましたが」
マティアスがそう言うとウィルバートが暴漢三人を連れてきた。
「バルヴィア山が消失し、黒霧が収まったことに私が生きている可能性を感じて急ぎマリアンナを始末しようとしたのでしょう? しかし時間がなく自ら彼らに指示してしまった。彼らはもう貴方からの指示であると白状しましたよ」
目を逸らし俯く暴漢三人にクレモラはギリリと歯を鳴らした。
その場に居た人々が皆冷たい視線をクレモラに向ける。後ろに付いていた兵士二人がクレモラの腕を掴んだ。クレモラはそれを振り解こうと抵抗するが鍛えられた兵士に敵うはずもない。
「それが事実だとしたら、そ、そいつが王殺しの実行犯だっ! 随分可愛がってるソレが極刑ななってもいいのか!」
もやはやけくそ気味に怒鳴るクレモラにマリアンナは落ち着いた様子で言葉を放った。
「親愛なるマティアス陛下とその臣民を危険に晒してしまった罪は重大です。極刑の覚悟などとっくに出来ています」
若干十八歳のこの娘の方が、中年のクレモラよりよっぽど覚悟と責任感と忠誠心が備わっているとマティアスは感じた。
「マリアンナにはそれ相応の罪を償ってもらうが、その後は私の騎士に任命する。だから極刑にはしない」
その言葉に固まるマリアンナにマティアスは笑顔を向けた。
「私のことを大事に思ってくれる人を側に置きたいからね」
マリアンナはふるふると首を横に振った。
「だ、駄目ですっ! そ……そんな資格、私にはありませんっ。それに私は女です。女の騎士など……!」
「もちろん、誰か良い人がいてすぐにお嫁に行きたいなら諦めるよ。なんなら結婚しても騎士を続けてもいいし。まあ、細かなことは後で考えよう」
マティアスの言葉にマリアンナは「へいかぁ!」と子供のように泣き始めた。マティアスはそれを微笑みながら見つめた。そして声を低く周囲へ言い放った。
「クレモラを牢へ。それからサムエル様、王位は私へお戻し頂けますか」
「もちろんでございます。私が無知な上に引き起こしたこの国家の危機。いかなる罰も覚悟の上です」
サムエルは憔悴しながらもどこかホッとしたような表情を浮かべた。
国を傾けてしまったのは王として重罪だ。だがそれは自身の責任でもあるとマティアスはひしひしと感じていた。サムエルには幽閉と称してどこかの田舎で過ごして貰おうと思った。輝飛竜の研究と共に。
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