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第三章 帰還⑧

「へ、陛下っ! 私に騎士など勿体なすぎます!」  クレモラが連れて行かれ、サムエルも退出した後、マリアンナが必死に言ってきた。 「アルヴァンデール史上初の女騎士だね。頑張って」 「へ、陛下っ!」  マティアスが笑顔で返すとマリアンナは益々困惑したような顔を真っ赤にさせた。 「それにしても……よろしいのですか?」  その様子をうかがっていたアーロンがおずおずと口を挟んできた。 「ウィルバートの記憶が戻ったのでしょう? ウィルバートを騎士にはされないのですか? 陛下の長年の希望だったではないですか」  アーロンは哀れむようにウィルバートを見る。ウィルバートは複雑そうな表情を浮かべて頭を掻きつつ目を逸らした。 「ああ、ウィルはね、私の妃になってもらうから」 「はあっ?!」  マティアスの言葉にその場に居た全員が驚き言葉を失ったが、一番大きな声を上げたのはウィルバート本人だった。 「良いって言ってたじゃないか。何故初めて聞いたような声を出す?」  バルヴィア山に向かう輝飛竜フェイの上でマティアスは確かにウィルバートに求婚し、ウィルバートもそれを了承してくれた。そう思っていたが、風でよく聞こえなかったのだろうかとマティアスは不安になる。 「き、『妃』だなんて聞いてない!」  ウィルバートが声を荒げて言い返してくる。 「だって、アルヴァンデールには女王は居なかったから王配と言う地位が無いんだ」 「い、いやだが……!」  ウィルバートが称号にこだわるなんて意外だなと思いつつ戸惑うウィルバートを見つめているとベレフォードが溜め息をつきつつ口を挟んだ。 「確かに我が国では王の伴侶には『王妃』と言う称号しか想定されておりませんな。マティアス陛下が伴侶を選ばれるのは独断で可能ですが、法を変えるとなるとそうはいきません。数年はかかると思いますぞ」 「ほらぁ!」  思わぬベレフォードの助け舟に乗りマティアスはウィルバートに向って笑顔を向けた。 「ほ、ほらぁって! ……それなら俺も、俺も騎士がいい! 別に騎士は何人居てもいいだろう? 騎士にしてくれ!」 「やだ! 騎士じゃ嫌だ。どんな形でも側にいるって言ってたじゃないか!」  マティアスはむくれながらウィルバートに詰め寄った。ウィルバートは困ったように言葉を詰まらせている。その様子を見ていたアーロンが『ふはっ』と笑いを漏れさせた。 「ああ、昔のマティアス様に戻られたようで、なんだか安心いたしました」  それを聞いたロッタが頷く。 「ええ。やはりマティアス様にはウィルバート様が必要だったのですね」  マリアンナは驚いたようにマティアスとウィルバートを見つめた。 「私、あんな陛下を見るのは初めてです」  セラフィーナは不思議そうに呟いた。 「私から見たら五歳のマティアスと変わらないわ」  さらにベレフォードが大きく溜め息をついた。 「イーヴァリ様と私は間違った方向へ導いてマティアス陛下を随分苦しめてしまった。もうどんなに反対しても陛下はご自分の信念は曲げないでしょうな」  それを聞いてクラウスは実に面白そうに笑った。 「あの堅物の父上が男の伴侶など許す訳が無い。今頃雲の上から歯ぎしりしていそうだな」  周りで笑う従者達にかわまずウィルバートに詰め寄るマティアス。 「『黒霧の厄災』を鎮めたんだ。ご褒美があってもいいだろう?」 「それはそうだが、こんなゴツい中年男を『妃』だなんて。マティアスが笑い者にされる」 「誰にも笑わせない。私はウィルが私の最も大切な伴侶だと皆に言いたいのだ」  見かねたのかアーロンが呼び掛けてきた。 「ウィルバート。陛下は一度こうと決めたら曲げないぞ。あきらめろ」  笑いながら言われたウィルバートは眉間を寄せつつ不服そうに口を開いた。 「……そんなの、俺が一番よく知っていますよ」

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