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番外編: Homunculus [6]
「あ、もちろん婚礼衣装はウィルに作ってもらうからね」
マティアスがにっこりと笑顔でそう言った時、一番驚いたのはウィルバート本人だった。
『驚いた』というよりは『焦った』という方が正しいかもしれない。
マティアスとウィルバートの婚儀をどう進めるか、王族や官僚を集めての会議の場だった。
国王が男の妃を娶ると宣言しただけで既に関係者はパニック状態で、婚礼衣装など些末な問題に思えてきたのだろう。誰も反対はしなかった。
しかしウィルバートは自身のことを仕立て屋としてはまだまだだと感じており、さらにこのアルヴィンデール王国で仕立ての勉強をしたわけではないので自信など皆無に等しかった。
だからこそスクレダーを頼ったのだ。
(やっぱり……恨まれてるよな?)
アルヴィンデール王国が経済的にひっ迫している中、マティアスは質素倹約に努め、自身の服にはこだわりを持たず侍女達に作らせていた。
スクレダー率いる王城専用の仕立て師達は、マティアス以外の王族の服を作るなどしていたが、以前のようにたくさんの仕事があるわけでもなく、半分以上の職人が別の仕事を与えられ城を離れた。
そんな中、ポッと現れたのが隣国フォルシュランドからやってきたテーラーアールグレンだ。何年も自分たち王城専用仕立て師に服を依頼しなかった国王があっさりその異国のテーラーに服を作らせてしまったのだ。職人のプライドを思えば恨んで当然だ。
しかし、ウィルバートとしては何が何でもスクレダーの協力を得る必要がある。
『国王が男を妃に選んだ』と、きっと国中が騒いでいる。間違った婚礼衣装でマティアにに更なる恥をかかせる訳にはいかないのだ。
(マティアスに相談すべきか?)
そう思うのだが、『黒霧の厄災』を鎮め国王の座に戻ってからマティアスの毎日は多忙を極めている。時を超えて帰還した叔父のクラウスと共に各所を飛び回り、ウィルバートとは昼間ほとんど顔を合わせることは無い。だからこそ二人でゆっくりと過ごす夜に心配事は持ち込みたくない。それに『スクレダーに嫌がらせされている』と国王マティアスに言いつけるなどそんな情けないことはウィルバートの男としてのプライドが許さない。
何より、先日起こった魔物まがいなウィルバート分身出現事件。あの事件でマティアスはだいふ落ち込んでいるように感じていた。
『愛する者の種を、この身に取り込みたいと、思ってしまったのです』
マティアスがそう思っていてくれることは嬉しい。だがその想いに甘えすぎていた。
そもそも記憶を失う前、バルヴィアのいたずらによってマティアスを抱くことになった時、マティアスの中を汚すなど考えられなかった。
その後記憶を奪われ、それでもまたマティアスに惹かれ、マティアスの過去に想い合った男がいたと知った時、激しい嫉妬と憎悪からマティアスの中を汚してしまった。
そこからはなし崩しだ。
マティアスが許すからと欲望のままに我が物顔でマティアスの身体を蹂躙してきた。国王であるマティアスと身体を繋ぐその時だけが、マティアスを自分だけのものにできると感じていた。しかしその無責任な行動でマティアスを危険にさらしてしまったのだから実に愚かな行為だったのだ。
(でも、せがまれるんだよなぁ……)
昨晩もマティアスに『もっと奥』と求められた。ウィルバートとしてはうっかり中で放ってしまわないように必死なのだが、艶めかしく乱れたマティアスはお構い無しに煽ってくる。結果、以前のように激しく抱くことが出来なくて、なんとなくマティアスが不満そうな気がしている。
今ウィルバートの役目はマティアスを癒し支えることだけ。それすらも満足に出来ずにいるのに、さらに心配事を閨に持ち込むわけにはいかないのだ。
その考えは間違ってはいないはずなのに、心の奥底にくすぶる『何か』を感じた。でもそれは出してはいけない気がして、ウィルバートは気付かないふりをした。
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