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番外編: Homunculus [14]*

 老人ながら元気に怒るベレフォードを見送った後、ウィルバートはマティアスに顔を近づけた。かすかに感じる甘ったるい香水の匂い。マティアスには似合わないと感じる。 「女の匂いがついたな。風呂に入ろう」  ウィルバートはそう言い、ロッタに王族専用の大浴場の用意をお願いした。  かつてそこ巨大な六角形の浴槽には波々と湯が張られていた。今その浴槽は三等分にレンガで仕切られ、その一角だけが使用される。  マティアスは十九歳の時、祖父のイーヴァリと共に火焔石使用禁止令を発令し、その際に燃料節約の為、浴槽を仕切る工事もしたのだという。 (まぁ、狭くていいよな……)  ウィルバートは変形した四角形の中でマティアスを背中から抱きながら湯に浸かり思った。  つい先ほどマティアスの髪を丁寧に洗ってやった。娼婦のきつい香水も落ちて今は心地よい柑橘の香りを放つその金髪にウィルバートは鼻先を埋める。 「あっ……ウィル、くすぐったいよ」  微かに笑みと艶を含んだマティアスの声が浴場内に響く。ウィルバートはさらに顔を押し付け、マティアスのうなじに舌を這わせた。 「ん……っ」  マティアスの声が濡れ始め、柔らかな尻に触れるウィルバートの中心部もずくりと硬くなりはじめる。 「娼婦と何話してたんだよ」  ウィルバートの何気ない質問にマティアスは身体をよじらせ振り向いた。 「知りたい?」  いたずらを企む子供のようにニヤリと笑う。 「おかしな魔術、吹き込まれたんじゃないだろうな?」  ウィルバートはマティアスの魔術を正直信用していなかった。空間移動もウィルバートのもとに飛ぶことしか出来ないし、情事後の処理を誤り魔物紛いのものを作り出したことはまだ記憶に新しい。 「元々知ってる術の応用だよ。ちょっと目を閉じて」  マティアスは身体を離し、ウィルバートに向き合うと好奇心で満ち溢れた目を向けてくる。甘い空気で戯れていたのに余計なことを言ってしまったがマティアスは簡単に人の言うことを聞く男ではない。ここはちょっと好きにさせて早々に主導権を取り戻したいところだ。ウィルバートは溜め息をつくと目を閉じた。  マティアスが微かに笑う気配の後、瞼ごしにでも分かるほど強い光りを感じた。マティアスが魔術を使う時に放つ光の色と温かさだ。その光が収まると両方の頬をするりと撫でられた。 「もういいのか?」 「「ああ、いいよ」」  聴こえたマティアスの声に違和感を感じつつもウィルバートはそっと目を開けた。 「なっ?!」  狭い浴槽でウィルバートに向かい合うように膝立ちでこちらを見つめていたのは二人のマティアス。 「「えへへ」」 「ぶ、分身?! 危なくないのか?!」  ウィルバートは焦り身を起こしその二人になったマティアスを見つめた。 「「そんなに難しい魔術じゃないんだ。鏡合わせのようにしか動けないし、幻覚に近い」」  そう話すマティアスは確かにきっちり左右対称に動いている。肩につかない程度の金髪は滴る雫すら同じ形で、浴槽のお湯も浸かっている人間が三人になったのに溢れてもいない。 「「でも、ほら、触れられる」」  二人のマティアスはそれぞれ両手でウィルバートの左右の手を掴み、その手のひらを自身の胸に押し当てた。しっとりと馴染むいつも通りのマティアスの滑らかな肌。 「「ね?」」  微笑み小首をかしげる様はいつも通り美しいマティアス。そしてそれが二人になっている。  ウィルバートの喉が無意識にゴクリと上下した。あの娼婦はこうして客を悦ばせているのだ。 「まったく、なんてこと吹き込まれたんだ……」 「「嫌か?」」 「嫌ではないが……」  むしろ最高だよ、と言う本音を隠しつつウィルバートはマティアスを諭す。 「やっぱりお前の身に何かあったらと思うと心配だ」 「「じゃあ、すぐ戻るから少しだけ。ね、ここ座って」」  二人のマティアスは揃った動きで浴槽の淵を指し示した。渋々ウィルバートがその縁に腰掛けると二人のマティアスが浴槽の中に跪き、ウィルバートの脚を広げさせ二人で股間に顔を寄せてきた。 「お、おいっ」 「「こうすると皆喜ぶって」」  すでに半分勃ち上がっていたウィルバートの中心部に二人のマティアスが左右から唇を寄せる。 「まっ、マティアスっ!」  何をされるのか分かった瞬間、情けなくもめきめきと硬くいきり勃つ我がムスコ。それが両側から柔らかな唇で挟まれ、さらに赤い舌で舐めていく。二つの濡れた唇と舌はゆるゆると上を目指し、つるりとした先端部分に到達した。 「っ……!」  自身の亀頭を挟んで二人のマティアスがキスしているように見える。短くなった金髪を耳にかける仕草がそれに拍車をかけ、その眺めに一気に血が下半身へ集まっていった。息を詰まらせていると、伏せられていた金色のまつ毛がふいに開き、四つのエメラルドの瞳と目が合った。 「あぁっ……くっ!」  ゾクリと震えた瞬間、美しい二つの顔にビシャッとかかった欲望の証。それを赤い舌がペロリと舐め取る。  自身でも驚くほど早く達してしまったウィルバートをマティアスは満足そうに微笑み見つめてくる。分身したままで。 「俺は、王様になんてことさせてんだ……」  羞恥心に耐えかねウィルバートは両手に顔を埋めた。 「「今はただのマティアスだろう?」」  二人のマティアスはウィルバートの両太腿にそれぞれ頭を乗せ嬉しそうに見つめてくる。  そう、マティアスはウィルバートのものだ。今も昔もその肌に触れ、その中深くを汚したことがあるのはウィルバートだけなのだ。 「マティアス、もう戻ってくれ。片方だけ抱くのは心苦しい」  達したばかりだが熱が再び集まるのを感じた。もっとしっかりマティアスを感じたい。  ウィルバートの要求にマティアスは体を起こすと、その身体は金色に輝き出した。ウィルバートが眩しさに目を細めているうちに二つの光は一つになり、元のマティアスへと戻った。  マティアスのことだ。『戻れない!』なんて言うんじゃないかとヒヤヒヤしたが、目の前に現れたのは元通りの愛しい人の姿。  ウィルバートはマティアスの手を取り引き寄せると自身の腰に跨がせた。そしてマティアスの背中に腕を回しきつく抱きしめキスをする。 「マティアス……愛してるよ」 「ん……カイ……」  閨での呼び名でマティアスがウィルバートを呼ぶ。互いの肌を確かめるように密着させ舌を絡ませ合うと、達したばかりだと言うのにウィルバートの中心部はむくむくと再び膨張し始めた。 「……今日はお前の中で果てたい」  キスの合間に囁くとマティアスはうっとりと見つめ返してくる。  実はそのつもりでこの浴室に連れたんだのだ。ここなら後処理がしやすいから思う存分にできる。だから今晩はマティアスが満足するまで激しく抱くのだと。 「後でキレイに掻き出すからな、取り込むんじゃないぞ」 「ん……あぁっ……」  マティアスの耳元でそう囁きながら尻の合間を探り指の腹でそこを撫でてやると、マティアスは腰をくねらせうっとりと喘いだ。

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