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① 生まれ変わってもまた猫でした

「アル~。アル~、どこだー?」  家の中をあちこち探し回っているのだろう。その声は近付いたり少し遠のいたりしながら、ただアルの名を呼び続けていた。  すぐにでも返事をして出ていって、自慢の喉を鳴らして癒やしてあげたい。  でも、ダメなんだ……。  猫は最期の時が近づくと、飼い主の前から姿を消すと言われている。  アルは、自分の命の灯火が残り僅かだと悟って、普段入るのを嫌がっていたクローゼットの奥に身を潜めていた。  大嫌いだった病院に行く時に使用していたキャリーが置いてあるから、きっと探しに来ない場所。  ちょっと嫌だけど、見つからないという安心感とともに、キャリーの中に横たわった。  ありがとう、だいすき、さようなら──。 「にゃー……ん」  アルは、もう誰にも届かないようなか細い声で、鳴いた。  幻聴と思われてもいいから、最期に大好きな人へ届くように願いながら……。  身体をまとっていた、だるさや息苦しさが無くなったと感じ、そっと目を開けてみた。  見渡す限りの真っ白な空間。   (きっとここに神様がいるんだ!)  アルは自分の命が短いと分かった時、レオと話せるように、今度は人間に生まれ変わりたいと願った。  辛い治療にも耐えて頑張ったのだから、きっと神様はお願いを聞き入れてくれたはずだ。  そう信じて疑わなかったアルは、ワクワクした気持ちのまま、パッと両手を広げてみた。 (あれ……っ?)  期待とは反して、アルの目の前にあるのは、真っ白な毛の生えた、見慣れた猫の手だった。  見た目は猫のままだけど、きっと、人間の言葉は話せるはず。恐る恐る声を発してみる。 「にゃー……ん」  けど、人生……いや違うな、猫生? が、終わる時に、レオへ思いを馳せながら出した声と、全く同じ音が耳に入ってきた。  手も声も、体全体を覆う白い毛もお尻からシュッと伸びる尻尾も、前と何ひとつ変わらなかった。 (僕は、生まれ変わっても『猫』なんだ。そういう運命なんだね)  少し寂しかったけれど、慣れた猫なら戸惑うこともないし、これはこれで良いかもしれない。  うんと、心の中で頷いて気合を入れ直すと、ぐーんと大きく伸びをした。  アルは、真っ白な毛並みのオス猫だ。  ちょうど一歳になった頃、餌も満足に食べられず弱っていたところを、レオに拾われた。  けれど、保護された時にはすでに病にかかっていて、レオとの生活は病院と家の往復だけだった。    治療の甲斐もなく、二年という短い人生を閉じることになったけど、レオと暮らした一年間は、かけがえのない幸せな時間だった。    アルの願いは叶わなかったけど、慣れた猫に生まれ変わったし、身体の調子も良さそうだ。 (今度は、前よりも長く生きられるかな)  クローゼットの中で迎えた最期の時を思い出すと、きゅっと胸が痛む。 (大丈夫! さあ、行こう!)  神様にご挨拶してからと思ったけど、しばらく待っていても出てこない。まぁいっかと気を取り直すと、アルの毛色と同じ真っ白な空間から、一気に飛び出した。

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